【魅力的で危うい攻撃サッカー】ASローマの戦術を徹底解剖!

【魅力的で危うい攻撃サッカー】ASローマの戦術を徹底解剖!

2021年2月1日 6 投稿者: マツシタ
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セリエAも20-21シーズンの日程の半分を消化し、いよいよ後半戦に突入した。

前半戦を終えての順位表を見てみると、まず目につくのがミラノ勢の好調だ。過去9年間はユベントスの独壇場となっていたセリエAだが、10年前まではミラノ勢が上位を争うのが普通だった。競争力が高く、スリリングなセリエAが帰ってきた感があり、オールドファンにとってはたまらない展開だろう。

10連覇がかかるユベントスは前半戦終了時点で4位。ミラノ勢以外にももう1チームユベントスよりも上位につけているチームがある。それが今回紹介するASローマだ。

ローマが前半戦で挙げた得点数は41で、これはインテル、アタランタに次ぐセリエA3位タイの数字だ。リーグ屈指の攻撃力を持つチームだということがわかる。

一方で前半戦を通しての失点数は32。上位10チームの中では突出して多く、リーグ全体でみても14位と下から数えたほうが早い。

高い得点力と低い守備力。魅力もありつつ危うさもある、そんなチームだといえる。

今回は、そんなローマの戦術について徹底的に掘り下げていこうと思う。




ローマのフォーメーション

現在の基本フォーメーションはこんな感じ。

もともと右のシャドーでは新戦力のペドロが定位置をつかんでいたが、彼が負傷している間に22歳の新星ゴンサロ・ビジャールが台頭。彼がボランチで定位置をつかみ、もともとボランチにいたロレンツォ・ペッレグリーニがシャドーにポジションを上げた。

そのほかジェコの控えとしてボルハ・マジョラルが公式戦9ゴールと存在感を示し、センターバックではけがから戻ってきたマラシュ・クンブラが出番を増やし始めている。イバニェス、マンチーニとタイプ的に似ており、三つ巴の定位置争いの様相を呈している。

またGKではミランテの負傷によりパウ・ロペスが出番を増やしている。

そして移籍起源土壇場で中国から復帰したイタリア代表のアタッカー、ステファン・エル=シャーラウィがどのように組み込まれてくるかも見ものだ。




攻撃

 

3バック+2ボランチのビルドアップ

ローマの攻撃戦術はポジショナルプレーの考え方に基づいており、基本形の3-4-2-1からビルドアップ時には下の図のような4-1-5の陣形を組む。

ボランチの一角であるゴンサロ・ビジャールが斜めに引いてCBの一角に入り、相棒のヴェレトゥがアンカー化する。一方、前線ではウイングバック、シャドー、センターフォワードの5人が5レーンを埋めるポジショニングをとる。

4+1のビルドアップ部隊にGKも含めた6人で丁寧にボールを回しつつ前方で待つ5人へボールを送り届けることがビルドアップの狙いだ。

ビルドアップのクオリティーはセリエA全クラブの中でも屈指の完成度を誇っており、後方でボールを失う場面はほとんど見られない。

両サイドCBのイバニェスとマンチーニはともに中盤もこなせる選手で、CBとしてはかなり高いテクニックを持つ。本職中盤のビジャールも含めて、後方のユニットはみなテクニックが高くミスが少ないのだ。

加えて選手間の距離を近く保っていることもミスが少ない要因だろう。サイドCBは目いっぱいまでは広がらず、大外はウイングバックに任せる。サイドCBはWBとCBの中間的なポジショニングをとるため、各選手間の距離は10メートル少々になる。

さらに、ローマのビルドアップ時のリズムは非常にゆったりとしている。決して急がず焦らず、ボールを回しながら前方の選手へのパスコースを探る。各選手のテクニックの高さ、そしてそれに起因する自信がそれを可能にしているのだろう。

本来高いテクニックを持つ選手たちがこれだけ近い距離感を保って丁寧につなげば、滅多にミスは起こらないというわけだ。

現在のローマは選手本来の技術の高さにチームとしての整備されたポジショニングとメカニズムが加わってセリエA屈指のビルドアップの完成度を実現しているといえるだろう。




後方でのパス回しで相手を引き込みリズムチェンジ

ローマがゆったりと後方でボールをつなぐのは、ミスを減らすという消極的な目的以上の意図があるように見える。

後で詳しく述べるが、ローマが最も得意とする攻撃の形はオープンスペースを素早く攻略する速攻だ。スピナッツォーラムヒタリアン、ヴェレトゥをはじめ、速攻を得意とする選手が多くそろっているためだ。

これを実現するべく、後方でゆったりとボールを回すことによって相手を自陣までおびき出し、最終ライン裏にスペースを作り出そうとしているのではないだろうか。

この戦術はJリーグで片野坂監督率いる大分トリニータが得意としており、「疑似カウンター」として広く知られるようになった。ローマも同じ目的を持っているように見える。

事実、ローマは攻撃に詰まったら躊躇なく最終ラインまでボールを戻し、攻撃を組み立てなおす。その様子は敵陣にスペースがなくなったので相手の守備ブロックを意図的に自陣へおびき出そうとしているように見える。

自陣でボールを回し手相手を引き込むといことはそれだけ自分たちのゴールに近い位置で奪われるリスクが上がるということ。ビルドアップによほどの自信がなければできないことだろう。ローマにはそれを実現できるだけのクオリティーがある。

そうして後方ではゆっくりと回しつつ、前方で待つ「レシーバー」の5人にボールが入ればローマの攻撃は一気にスピードアップする。素早くサイドに展開し、そこへ人数をかけてゴール前に殺到、相手が混乱しているうちに得点を奪ってしまうというのが必勝パターンになっている。

後方でのゆったりとしたビルドアップ、そこからの急激なリズムチェンジによる素早い崩し。これがローマの攻撃の一連の流れだ。




ジェコという起点

先ほどローマのビルドアップ部隊は近い距離を保つと書いた。となるとマークしに来る相手も近い距離に集まることになり、選手が密集してだんだんパスが回しにくくなる。

そうなったときに逃げ場となるのが最前線のエディン・ジェコだ。フィジカルの強さに足元のテクニックを兼備するジェコは多少雑なボールでも収めて攻撃の起点になってくれる特別なプレイヤーだ。

相手が前掛かりになってきたときに一気にジェコへロングパスを送り、プレスを空転させる形もローマのビルドアップの主要パターンになっている。

このロングパスが合図となり攻撃が加速するのだ。




崩しの核はスピナッツォーラ

もうひとり、ローマの崩しに欠かせない選手となっているのがレオナルド・スピナッツォーラだ。

スピードあふれるドリブル突破が武器で、特に初速の速さには目を見張るものがある。突破力でいえばセリエAでも1,2を争うレベルのドリブラーだろう。

彼がいる影響でローマの崩しは左サイドに偏っている。前線部隊へボールを当てたら素早くスピナッツォーラにボールを渡すことが多い。できるだけ広いスペースをスピナッツォーラに与えることが狙いだ。

広大なスペースでスピナッツォーラを止められるディフェンダーはほとんどおらず、ローマのチャンスの多くは彼を経由して生まれている。

ローマが縦に素早い攻撃を志向するのはスピナッツォーラを活かすことが最終的な目的なのかもしれない。それくらいローマに欠かせない選手だ。




今後に向けた課題は?

爆発的な攻撃力を誇るローマだが、攻撃面で今後に向けた課題はあるのだろうか。

それが垣間見えたのが同じ町のライバル、ラツィオに屈辱的な完敗を喫した第18節の試合だった。

この試合、ラツィオはローマに対して前線からプレスをかけることを放棄し、自陣に引きこもった。たとえローマが後方にボールを戻しておびき出そうとしても応じなかったのだ。

下はこの試合のローマとラツィオの平均ポジション。ローマは最終ラインがハーフウェイライン付近にまで押し上げられているのに対し、ラツィオはFWがペナルティアークあたりまで押し込まれていることがわかる。

 

こうして自陣にブロックを敷いたラツィオは、仕方なく攻めてきたローマの攻撃を跳ね返し、逆にカウンターから鮮やかに3点を奪って見せた。ローマからしてみれば自分たちがやりたいことをされて完敗した屈辱的な試合だった。

この試合で明らかとなったのはローマには引いた相手を崩す手段がないという弱点だ。自陣でしっかりと引いて守るラツィオに対し、ローマは攻めあぐねた。

ローマの攻撃陣はオープンスペースでの攻撃を得意とする選手が多い反面狭いスペースでのプレーも苦にしない選手はペッレグリーニくらい。

崩しの切り札スピナッツォーラもドリブル突破は破壊力抜群な一方でクロスボールの精度はあまり高くない。スペースがあらば破壊力抜群だが、スペースがないと消えてしまう傾向にあるのだ。

得意な形を封じられたローマは空中戦に強いジェコへの放り込み以外に打開策を見いだせない様子で、ラツィオの堅守を崩せず無得点に終わってしまった。

今後対策が進んでくると、同じことをしてくる相手が増えるかもしれない。そうなってきたときに新たな攻撃の形を見出せるかが今後のローマの課題だといえるのではないだろうか。




守備

 

リトリート&ミドルプレス

ローマの守備に対する基本姿勢はミドルゾーンにブロックを作って待ち構え、その中に入ってきたボールに対して厳しくプレッシングを行うというものだ。

ローマは基本的にはあまり高い位置からプレッシングは行わない。ハーフウェーラインあたりまでは段階的にリトリートしていってブロックを下げ、ここを超えてきたら厳しくボールにプレスすることを要求する。

ローマの守備ブロックは下の図のような、5バック+五角形とでもいうべき独特な形をとる。

相手が低い位置でボールを持っている段階でシャドーの選手に求められることは中央のパスコースを消すことだ。サイドにボールが出たときにはウイングバックが前に出てプレスする。

また、シャドー+1トップの背後に位置する相手のアンカーの選手に対してはヴェレトゥが前に出ることで捕まえに行く。ふつうはシャドーを下げることで対応するのだが、ローマはシャドーを動かさないのが特徴。高い位置から中央のパスコースを遮断し、相手をサイドに追い出そうという意図がうかがえる。

そうしてサイドにボールを追いやりつつ後退し、相手が自陣へ入ってくればシャドーの選手はMFラインのサイドに加わる。押し込まれたときには5-4-1のような陣形となるのだ。

シャドーの選手を高い位置に残しておくのはカウンターを機能させやすくするという目的もあるのではないだろうか。

フォンセカ監督はスモーリングが負傷していた期間、中盤のプレイヤーだったクリスタンテをCB中央に起用するほど攻撃マインドが強い監督。多少のリスクを承知でもアタッカーを高い位置に置いておき、ジェコとの距離をあらかじめ近くしておくことでカウンターの破壊力を上げることを考えていてもおかしくないような気はする。




なぜプレッシャーがかからない?

このように、相手の前進に合わせて段階的にラインを下げていく守備を行うローマだが、それゆえにボールにプレッシャーがかからないまま押し込まれてしまう場面は少なくない。

たとえば、相手が前を向いてボールを持っているのに誰もプレッシャーに行かず、自由を与えてしまうシーンは少なくない。それよりも「後退」というチームの守備原則を優先してしまっている印象なのだ。

後退の意識が強すぎるあまり及び腰になり、相手に十分なプレッシャーがかからず自由を与えてしまう。これがローマの失点数がかさんでいる最大の理由なのではないだろうか。

これも推測だが、フォンセカ監督は相手がボールを持っている場面でもできるだけ相手を自陣に引き込みたいのではないだろうか。そうして意図的に敵陣にスペースを作り出し、カウンターでそこをアタックする…そんなイメージを持っているような気がする。

しかし、今のままでは守備が緩すぎる。それは失点数の多さが証明している。ローマは上位を争うほかのライバルと比べると失点数が突出して多くなっているのだ。もっとも失点数が少ないユベントスやヴェローナと比べると、その数値は倍近い。

基本姿勢を撤退守備にすることはいいと思うのだが、その中でもボールホルダーやその周辺に対してはより強度の高いプレスを行って自由を奪うべきだ。今の姿勢は消極的すぎる

各プレイヤーが積極的に相手にプレスをかけられるようなメンタルコントロールや穴埋めのメカニズムの構築などがフォンセカ監督に求められるのではないだろうか。




ハイプレスの完成度はまだ低い

また、負けている場面ではハイプレスによって高い位置でボールを奪おうとするのだが、この完成度が低い。基本的に撤退守備なので、前に出る守備になれていないのだろうか。

プレッシャーに行っても中途半端で、ボールホルダーに対してあまり制限がかけられていない。また最終ラインの押し上げが不十分で、中盤に広大なスペースを与えてしまう場面も多く見受けられる。

ハイプレスに行ったほうが簡単にそのプレスを外され、むしろ後方に広大なスペースを提供してしまうという印象。率直に言って完成度は低い。

基本姿勢をリトリートにすることはいいと思うのだが、負けている場面でハイプレスを行わなければならない局面は今後も必ず訪れるはず。もう少しチーム全体で連動したプレッシングを行えるようにしておいたほうがいいだろう。




トランジション

 

ポジティブトランジション時のカウンターが最大の武器に

ローマの攻撃の最大の手段が速攻であることはしつこく触れた通りだ。

ボールを奪えば両ウイングバックやシャドー、さらにボランチの一角であるヴェレトゥまで相手DFライン背後に飛び出す。人数をかけてゴール前に殺到する様は迫力満点だ。

直接裏へボールが出せない場面ではジェコへ当てる。彼がボールの中継地点となって速攻を機能させる場面も多い。

 




 

ネガティブトランジションには改善の余地あり

ネガティブトランジションでは、ボールに近い選手が遅らせるような守備を行う。そうして時間を稼いでいる間にその他の選手は自陣に撤退し、守備陣形を整えるのだ。

ただし、ネガティブトランジションは機能していない場面が多い

まず、遅らせる守備があまりうまくいかない場面が多い。前述のとおりボールホルダーに対するプレッシャーが緩い傾向にあることはどの局面でも変わらず、比較的容易にボールの前進を許してしまっている印象だ。

さらに、自分たちのカウンター時の迫力が嘘かのように、被カウンター時の帰陣が遅い。その結果、最終ラインの選手たちに個人能力での解決が求められるような場面が多くなっている。前線の選手が帰陣して助ける必要があるように見える。

今のローマは自分たちのカウンターは強い反面、相手のカウンターに弱いというチームになっている。攻撃を重視してテクニックに優れるDFを起用するマインドは魅力的なので、守備面で彼らの守備の弱さを補う仕組みを構築したいところだ。

このように、守備の局面と合わせてみてもローマが守備面で危うさを抱えていることは明らかだ。よりプレッシングの強度を上げるか、撤退守備を行うなら帰陣を早くすることが必要だろう。

 




 

あとがき

ここまで3位のローマ。ELもグループステージを突破しており、前半戦の戦いぶりには一定の評価が与えられるように見える。

しかし、ここにきてフォンセカ監督の解任論がうわさされ始めている。原因には諸説あるが、そのひとつに上位チームに勝てないということがある。

ローマの前半戦の対戦成績を見てみると、10位以下のチームに対しては全勝である一方で9位以上の上位8チームとの対戦成績は5分3敗でひとつも勝ちなし。ここまできれいに分かれるのは面白い結果だ。

下位チーム相手になら守備力の不足を攻撃力で無理やりカバーすることができるものの、相対的に守備力が高くなっていく上位陣に対してはそれが通用しない。それが結果にも表れているのではないだろうか。

今後ローマがスクデット争いに最後まで残っていくためには、上位勢との直接対決をものにしていく勝負強さが必要だろう。そして、そのためには守備力の改善が必要不可欠だ。

ローマの破壊的な攻撃力を生み出したのは間違いなくフォンセカ監督の手腕だ。だが、ローマのような一流クラブの監督ならば攻撃だけ構築すればOKなんて話にはならない。守備組織を整えて攻守に隙なく安定した戦いができるチームを作れるか。フォンセカの手腕が試されているといえるだろう。

 

 

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