【堅守速攻のその先へ】アトレティコ・マドリードの戦術を徹底解剖!

【堅守速攻のその先へ】アトレティコ・マドリードの戦術を徹底解剖!

2021年1月25日 3 投稿者: マツシタ
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アトレティコ・マドリードが好調だ。ここまで首位を快走しており、2位レアル・マドリードよりも1試合消化が少ない状態で勝ち点7差をつけている。13-14シーズン以来のリーガ制覇に向けて視界は良好だといえそうだ。

ディエゴ・シメオネ監督が指揮を執り始めてから10シーズン目となる今シーズン、アトレティコは従来の堅守速攻をベースに攻撃的なサッカーにシフト。これが成功して攻守に完成度が高いチームへと進化を遂げた印象だ。

進化したアトレティコのサッカーはどのようなメカニズムになっているのか。シーズン折り返し地点を迎えたいま、改めて掘り下げていこうと思う。




フォーメーションと戦術の概要

 

基本フォーメーション

シメオネ監督はこれまで一貫して4-4-2を採用してきた。しかし、今シーズンのアトレティコは3バックを採用。スアレスの起用によって生じる守備の不安をCBの枚数を増やすことによって補おうという意図があったと想像するが、これが攻守に予想以上の効果をもたらす形となった。

基本的にスターティングメンバーはこの11人に固定されてきつつある。注目なのがCBとサウールの処遇、そしてスアレスの相棒だ。

負傷離脱していたホセ・マリア・ヒメネスが帰ってきたCBは、4人のうちだれがベンチに座ることになるのか。チームが攻撃的な姿勢を打ち出しことで昨シーズンまでは4番手だったものの組み立て能力が高いマリオ・エルモソが序列を上げており、熾烈な定位置争いが繰り広げられそうだ。

同じくチームが攻撃的にシフトした恩恵を受けているのがトマ・レマル。当時のクラブ史上最高額であった7200万€の移籍金で加入しながら持てるポテンシャルを発揮しきれず失敗補強と揶揄されていたものの、3年目の今季になってついに本領を発揮し始めている。

 

そのレマルに押されて出番が減少傾向にあるのがサウール・ニゲス。昨シーズンまでのチームの中心選手である彼の立場がどうなっていくかは後半戦の注目ポイントだ。

そしてスアレスの相棒問題も今後の注目ポイント。前半戦はMVP級の活躍を見せたジョアン・フェリックスはここにきてベンチスタートが続いており、替わってアンヘル・コレアが起用され始めている。1億ユーロ以上をかけて獲得した次世代のスター候補をどう位置づけるのか、シメオネ監督の決断に注目だ。

 




 

戦術の概要

すでに何度もお伝えしているように、今シーズンのアトレティコ・マドリードはこれまでよりも攻撃的にシフトしている。しかし、守備がおろそかになったわけではない。むしろ守備は固くなってさえいる

CBの枚数が増えたことで中央の堅さはさらに高まり、ここまでリーグ戦でわずか7失点しかしていない。ラ・リーガ自体の得点数が減少傾向にあるとはいえ、リーグを半分消化して失点が1桁とは驚異的だ

それでいてバルセロナに次ぐリーグ2位の36ゴールを挙げてもいるのだから攻守に穴がないチームになっていることがわかる。昨シーズンの同時期の得点数は22であり、得点数は1.5倍に急増している。

それでは、進化した攻撃に重点を置きつつ4局面ごとの詳しい戦術についてみていこう。

 




 

攻撃

 

組み立ては3バック+アンカー

アトレティコのシーズン通したボール支配率は毎年50%を下回っていたが、今シーズンはここまで平均52.1%のボール保持率となっている。

理由は後方からしっかりと攻撃を組み立てることが多くなったことだろう。3バックの採用によって後方に人数が多くなったり、安定したボール循環が実現している。

 

試合によって異なることもあるが、アトレティコの組み立て時の陣形はおおむね上の図のような感じ。3-1-5-1のような形を作る。5つのレーンすべてに選手を配置する、いわゆるポジショナルプレーだ。

後方の3バック+アンカーのコケでビルドアップを行い、攻撃を組み立てる。

この3+1のビルドアップ隊の前で構える5枚はいわばパスのレシーバー。相手守備陣の隙間に潜り込んでパスを引き出すのが彼らに求められる役割。

CBからレシーバーにくさびが入った時は、少ないタッチでボールを動かして一気に局面を前に進めようとする。

ビルドアップのキーマンであるコケは昨シーズンまで4-4-2のサイドハーフで起用される試合が多かったが、今シーズンのシステム変更を受けてアンカーにコンバートされた。

コケにとってアンカーは展開力という武器を発揮するにはうってつけのポジションだ。エルモソを除いてアトレティコのCB陣は決して足元の技術に優れているとは言えず、コケのサポートは必須。

彼がサポートに入ってCBとボールを出し入れしつつ、機を見て前線へボールを配っていくことでスムーズなビルドアップが実現している。

 




 

左右で違うメカニズム① カラスコを活かす左サイド

相手チームもコケがキーマンであることは研究してきており、コケが中央で自由に持たせてもらえない試合も増えてきた。そのため、最近はサイドから前進していくことが多くなっている。

アトレティコは両サイドで異なるメカニズムを採用しているのが興味深いところだ。

左サイドはアトレティコのCBの中で最も足元の技術が安定しているマリオ・エルモソと本来はサイドの高い位置で仕掛けるドリブラーであるヤニック・カラスコのふたり。

エルモソのビルドアップに安心感があるため、カラスコは高めの位置に進出することが多い。エルモソのサポートを任されるのはむしろ左インサイドハーフのトマ・レマルだ。

ただし、ジョアン・フェリックスが起用された場合には彼が高めの位置をとり、カラスコが低めの位置にひいてエルモソをサポートする形をとる。

いずれにせよ、ボールを前進させた後はカラスコの個人技による突破が主な崩しの手段となる。中央への切込みをにおわせながら縦へ突破し、マイナスの折り返しを狙うことが多い。

 




 

左右で違うメカニズム② ジョレンテ・トリッピアーの右サイド

一方、右のCBステファン・サビッチは足元のテクニックに優れているとは言えない。そのため、キーラン・トリッピアーが低めの位置にとどまってサポートする形をとる。

トリッピアーの武器は右足の高精度なキックだ。

これを生かすため、トリッピアーにボールが入ったら必ずマルコス・ジョレンテが縦へのスプリントを見せる。ここへトリッピアーが高精度のロブパスを合わせるというのが右サイドの主な前進の形だ。

とてもシンプルな形だがトリッピアーのパス精度が非常に高く、ジョレンテのキープ力も高いのでこの形で確実にボールを前に進められる。トリッピアーはいわばサイドライン際の司令塔なのである。

 

狙いは図の赤い四角形で示したポケット(ペナルティエリアの付け根)と呼ばれるエリア。ここでキープ力があるジョレンテにボールを預け、時間を稼いでいる間にトリッピアーが追い付いてボールに絡む。

 

落としを受けて得意の高精度クロスを供給したり、ジョレンテやコレアとの連携からもうひと崩し入れたりと多彩なパターンで崩していく。トリッピアーの持つ攻撃性能を引き出すための形だといえるだろう。

現在、トリッピアーは賭博規定違反による10週間の出場停止処分中で、代役にはシメ・ヴルサリコが起用されている。

ジョレンテは変わらず縦へのランニングを欠かさずに行っているのだが、ヴルサリコはトリッピアーほどのキック精度がなく、ジョレンテにパスを出さずにバックパスを選択してしまう場面が多い。

これにはジョレンテも不満そうな表情を見せることが多く、アトレティコの右サイドはトリッピアーがいる時と比べて停滞してしまっている印象だ。トリッピアーの右足あってのメカニズムだということがよくわかる現象ではないだろうか。

 

このように、左はカラスコの個人技による突破、右はジョレンテの走力とフィジカル、トリッピアーのキック精度を生かした崩しという異なるメカニズムになっている。

それぞれのタレントの持ち味が最大限発揮されるよう攻撃の形を構築できているといえ、これがアトレティコの攻撃力をアップさせた要因だといえるだろう。

 




 

ポケットを攻略し中央で仕留める

前述のようにサイドからボールを運び、そのままサイドで崩すことが多くなっているのがアトレティコの攻撃の特徴。狙いは前術したポケットの攻略だろう。

左サイドではカラスコのドリブルで、右サイドではジョレンテのランニングとそこへのトリッピアーのパスでポケットの攻略を狙う。

それゆえ、フィニッシュに至る直前のプレーはペナルティエリア内からのマイナスのクロスとなることが多い。ここでルイス・スアレスの得点感覚が最大限に発揮されるのだ。

 

加齢により身体的な衰えは否めず、数年前のように独力での突破からフィニッシュという形は望めなくなっていることは事実。

これを受けたシメオネ監督はスアレスの仕事をエリア内の一瞬の駆け引きに限定することでその得点能力を最大限に引き出すことに成功している。

これはクリスティアーノ・ロナウドがタッチライン際でのドリブルを好むスタイルから徐々にゴール前での仕事に集中するストライカーになっていったのに似ている。

狡猾極まりないストライカーであるスアレスはエリア内の駆け引きに限ればいまだ世界最高峰のストライカー。アトレティコの攻撃の組み立ては最終的にスアレスを生かすためのものだといえる。

このように、持っている選手たちの能力を最大限に引き出せるよう攻撃を組み立てることに成功したシメオネ監督。長年の課題だった得点力不足は、ついに解決を見たといっていいのではないだろうか。

 




 

守備

 

基本的な姿勢はリトリート

ここからは守備についてみていこう。

といっても、守備に関しては昨シーズンまでのベースを踏襲しており、基本的な姿勢はリトリートで一貫している。無理にボールを奪いに行くのではなく、ブロックを作って待ち構えるのだ。シメオネ監督が10年かけて浸透させてきたスタイルは今もチームの武器だ。

昨シーズンと比べて変化したのがDFラインが4枚から5枚に増えたこと。これにより、センターバックの人数が一人増えている。その分だけ守備は固くなっている印象だ。

だが、カギとなっているのは3バックよりもむしろ中盤だとみている。

3バックを採用したことでひとり少なくなったのが中盤だ。しかし、アトレティコの中盤は世界屈指のハードワーク集団。スライドが極めて速く、それが90分間衰えない。

通常なら3枚で横幅68mをカバーすることは不可能だ。そのため、空いているスペースを使われたときは後方の5枚がひとり前に出る、または前線から1枚おろすことで一時的にMFラインを4枚にして対応する。

しかし、アトレティコのMFたちは3人合わされば4人分の仕事をこなしてしまう。だから、通常ならMFラインをサポートするためにDFが前に移動することで生じてしまうスペースが生まれない。最終ラインの密度が保たれているのは中盤の選手たちの超ハードワークという特殊能力のおかげなのだ。

 




 

守備陣形は試合によって異なる

守備時の基本陣形は図のような5-3-2。コレアは少し下がり目で中盤やサイドのスペースをケアすることが多く、正確に記せば5-3-1-1かもしれない。

 

しかし、今シーズンのアトレティコは試合によって守備のやり方を変えるようになっている。

レアル・ソシエダ戦はウイングバックのカラスコをほぼサイドハーフのようにした4-4-2。後ろを削って前線にかける人数を増やしたのだ。加えて守備姿勢もリトリートではなく前からのプレッシングに変更することでレアル・ソシエダの後方からのビルドアップを妨害しようとしていた。

 

サイドアタックを攻撃の軸とするセビージャとの試合では守備時にコレアをサイドハーフまで下げる5-4-1を採用。サイドの人数を2枚に増やして数的不利を作られないような対策を行っている。

 

昨シーズンまでは相手にかかわらず一貫して4-4-2のブロックで守っていたのと比べると大きな変化だといえるだろう。相手のスタイルに応じて柔軟に対応できるようになったことも守備のさらなる進化をもたらした要因だろう。

攻撃だけでなく、守備でも進化したアトレティコだといえる。

 




 

トランジション

 

ポジティブトランジションではカウンター優先

昨シーズンからの武器であるカウンターアタックはみられる回数が減ったとはいえ、大きな武器であることは変わらない。

カウンター時にロングスプリントで急先鋒となるのが左サイドのヤニック・カラスコだ。

 

ボールを奪うやいなや快足を飛ばしてすぐさま50mを駆け上がる。そうしてロングボールを引き出し、そのまま得意のドリブルで仕掛けるのだ。

このロングスプリントを90分通して繰り返すスタミナも見事で、同じポジションのライバルであるレナン・ローディから完全にポジションを奪った。いまや遅攻速攻の両面においてアトレティコのアタックに欠かせないピースだ。

そのカラスコに次いで「第二の矢」になるのがマルコス・ジョレンテ

 

ジョレンテはカラスコよりもフィジカルに優れ、力強い突破と数十メートルを走破するスプリント力を生かしてゴリゴリと持ち上がることができる。ボールを前進させるうえで唯一無二の存在だ。

左のカラスコ、右のジョレンテを中心としたカウンターアタックは対戦相手の脅威となっている。

 

ネガティブトランジションでは即プレッシング→リトリートへ移行

球際でファイトできる選手がそろっているアトレティコは、ボールを奪われれば即座に奪い返そうと相手選手へ襲い掛かる。サイドで攻撃することが多いため、相手を追い込みやすくなっている。

そうして相手にプレッシャーをかけ、タッチラインを割ってスローインになるか、相手にうまく逃げられれば自陣に撤退し、即座に守備の陣形を整える。即時奪回優先だが、無理はせずといったところだろう。

 




 

あとがき

ここまで見てきたように、アトレティコは攻守にわたって昨シーズンから進化している。大きく崩れることは考えにくく、このままリーガを制覇するのではないだろうか。

もし崩れるとすればけが人が続出したときだろう。現在トリッピアーが出場停止となって右サイドが停滞気味であることは前述した通りで、同じような長期離脱がいくつも重なってくるようだと調子を落とすかもしれない。ただでさえ過密日程なうえ、アトレティコのスタイルは強度が高いだけにありえない話ではない。

現在のアトレティコは先発の固定・そのタレントの特徴の組み合わせによって戦術が構成されている。不可欠なピースが大量にかけてしまえば、もう一度新たなパズルを組みなおす必要に迫られるだろう。

そういった意味で、リーグ制覇に向けてのカギはシメオネ監督の手綱さばきだといえる。

これが順調にいけばリーガ制覇は固いだろう。バルサは会長選で、レアルはジダン監督の処遇問題で揺れている。アトレティコが安定した戦いを続ければ13-14シーズン以来の覇権奪還も難しいミッションではないだろう。

むしろチャンピオンズリーグでどこまで勝ち進めるかが焦点になってくるかもしれない。シメオネ体制では2度決勝で涙を飲んでおり、欧州制覇は悲願のはず。CL制覇に向けた歩みにも注目だ。

 

 

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