【後半戦の巻き返しに注目!】ラツィオの戦術を徹底解剖!

【後半戦の巻き返しに注目!】ラツィオの戦術を徹底解剖!

2021年1月16日 6 投稿者: マツシタ
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昨シーズンはコロナウイルスによるリーグ戦中断までユベントスと優勝を争ったラツィオ。しかし、今シーズンはここまで7位と納得いく戦いはできていないだろう。

原因は負傷者の続出だ。一時はアウェーへの遠征メンバーの大半をユースの選手で埋め合わせなければならないほどにまで駒がいなくなってしまった。ただでさえ選手層が薄かったところを過密日程が直撃してしまった形になったのだ。結果としてシーズン序盤戦は不安定な戦いが続いたのも致し方なしだろう。

とはいえ、徐々に離脱者が戻ってきて安定した戦いができるようになってきた。シモーネ・インザーギ監督が6年かけてチームに浸透させてきたベースはしっかりしており、大崩れする心配はないだろう。

インザーギが就任してから大きくチームをいじったシーズンはなく、チームとして熟成段階にある。今回はそんなラツィオの戦術とはどのようなものなのか徹底的に掘り下げていこうと思う。




基本フォーメーションと戦術の概観

 

基本フォーメーション

 

戦術の概観

ラツィオの戦術の大きな枠組みは昨シーズンから変わっていない。インザーギ体制6年目を迎えるチームはここ数シーズンほとんど主力級の入れかえもなく、組織として成熟段階に入っている。

攻撃はまず速攻を狙うもののダメならじっくり組み立てなおす、守備は段階的にラインを下げてリトリート。全体的にインテンシティを抑えてプレーしている印象だ。

しかし、今シーズンは度重なる主力の負傷・コロナウイルス感染によって新加入の控え選手が頻繁に起用されている。新シーズンへの準備期間が短かったため適応に手間取ったものの、ここにきて新戦力がフィットしチームにプラスアルファを加えている。

新戦力がもたらした変化を中心に、今シーズンのラツィオの戦術を細かく見ていこう。




攻撃

 

レイナの定着でビルドアップの精度は向上

ラツィオのビルドアップはロングボールをあまり使わず、丁寧につないで前線に運ぼうとするという基本的な狙いは昨シーズンと変わらない。

だが、昨シーズンは早めにルイス・アルベルトに預けてしまうケースが多かったのと比べると、今シーズンはよりじっくりと後方で回しながら前方の選手にクリーンな形でボールを送ろうとするようになった。原因はGKがストラコシャからレイナに替わったことだ。

昨シーズンまでの守護神ストラコシャの負傷離脱によって定位置を確保したペペ・レイナは足元のテクニックのレベルが非常に高いGK。後方からの組み立て能力はセリエAで最も優れているといえる。

彼が最後尾に加入したことで、ラツィオは後ろで丁寧に回すようになった。前方にパスコースがなければ、無理せずレイナまでボールを戻してパスコースを探りなおすことも多い。それだけレイナに信頼感があるということだろう。

両サイドCBが開いてレイナとともに3バックを形成し、中央のCBはアンカーとともにその前方に2つのパスコースを提供する。この3+2のユニットで相手のプレッシャーをはがして前方への前進を狙う。

相手が食いついてきて中盤にスペースが空けば、レイナは降りてきた選手に鋭いくさびのボールを入れる。2トップの一角かミリンコビッチ=サビッチがこのスペースに落ちてきてパスの受け手になることが多い。

クサビのパスが入った後は近くの選手がサポートに入ってダイレクトでの落としを受け、前向きの状態でさらにボールを前進させる。

この鋭いくさびによる局面打開は昨シーズンまでは見られなかった形。ピッチ中央に通すパスは怖くてなかなかできない。足元に自信があるレイナだからこそできるプレーだ。

レイナの加入によりラツィオのビルドアップの精度は昨シーズンよりも高まったといえるだろう。




左サイドを崩し、中央へ

ラツィオの攻撃は明確に左サイドに偏っている。崩しの全権を握るルイス・アルベルトがいるからだ。

ルイス・アルベルトは頻繁に左斜めの位置に降りてきてボールを受け、ここから自ら持ち運んだりパスを散らしたりしてボールをアタッキングサードにまで前進させる。

ルイス・アルベルトにWBのマルシッチとセカンドトップのコレアが絡み、さらに後方からはサイドCB(図ではラドゥ)がサポートする。こうして左サイドに人数を集めて少ないタッチのパスワークで相手を押し込んでしまう。

そこから後方にサポートに入った選手にボールを戻し、アーリークロスをファーサイド送り込むのがラツィオの遅攻のお決まりのパターンだ。

このクロスボールのターゲットになるのが、逆サイドのインサイドハーフであるセルゲイ・ミリンコビッチ=サビッチ

191cmの長身MFは左サイドでボールを回している間に逆サイドからゴール前に上がって待機。クロスボールのターゲットとなり、そのまま叩き込むか中央へ折り返してインモービレのゴールを演出する。

後方から飛び出しクロスのターゲットになる彼のプレースタイルは「3人目のFW」とでもいうべきものだ。




フートがもたらしたもの

この左サイドの攻撃を活性化するうえで一役買っているのが新加入のCB、ウェズレイ・フートだ。

2年前までラツィオに在籍していたフートはインザーギ監督のスタイルを熟知しており、すぐさまチームになじんだ。

彼の持ち味はハードな守備と左足からのフィード能力。左右のウイングバックへロングボールを蹴り分けることができ、引いてきたFWに付けるくさびのパスもいい。レイナだけでなく、フートもまたラツィオのビルドアップ精度の向上に貢献した。

加えて、フートを中央に起用することでアチェルビをサイドCBで起用できるようになったのも大きい

アチェルビのプレースタイルまとめ

アチェルビもまた左足から正確なフィードを出すことができ、サイドからのクロスボールは本職さながらに高精度だ。

得点が欲しい場面でフートを投入してアチェルビに攻撃参加させクロスマシーンとして使うというオプションが新たに生まれたのだ。

フートの獲得は攻守両面でプラスアルファをもたらしたといえるだろう。




右サイドはラッザリの独壇場

一方、右サイドはどのような形になっているのだろう。

左サイドに人数を集め、同サイドのインサイドMFであるミリンコビッチ=サビッチはゴール前に入っていくので右サイドにはマヌエル・ラッザリしかいない。

そのため、右サイドはラッザリの独壇場となっている。といってもラッザリは狭いスペースでも突破していけるタイプでもなく、プレーの選択肢もあまり広くない。なので、遅攻の場面では縦に突破するそぶりを見せつつそのままクロスを送るのがほとんど唯一の選択肢になっている。

もっともラッザリの最大の武器は爆発的なスピードであり、それを最も生かせるカウンターの局面で輝きを放つ。彼はカウンター要員であり、そこで十分以上に活躍してくれるので遅攻での決定的な活躍までは求められていないのではないだろうか。

カウンターは右のラッザリ、遅攻は左サイドに人数を集めての攻撃というすみわけができているのが今のラツィオだといえる。




フィニッシュではインモービレに依存

前線までボールを運んだあと、最終的なフィニッシュに至るまでの局面ではチーロ・インモービレに大きく依存している。

ここ3シーズンで2度の得点王を獲得しているインモービレはラツィオの大エース。今シーズンも得点を量産しており、特に11月以降はヴェローナ戦を除いて出場したすべての試合で得点を奪っている。間違いなくセリエA屈指のストライカーだ。

逆に言えばインモービレ以外から得点が生まれていないということでもある。これは改善点といえるだろう。

もっとも、ラツィオの戦術はインモービレを生かすために構築されているため狙い通りだともいえる。空中戦を中盤から上がってきたミリンコビッチ=サビッチにやらせるのも、崩しをコレアやルイス・アルベルトに任せるのもインモービレにゴール前での仕事に集中してもらうため。

後述するように守備のラインを低めに設定するのもインモービレが得意なオープンスペースでの走り合いを誘発するためでもある。

インモービレのプレースタイルまとめ

 

ここに、ここまでは負傷離脱を繰り返してコンスタントに出場機会を得られていないホアキン・コレアが戻ってくればまた状況は変わってくるだろう。

コレアは高度なテクニックを生かして単独での仕掛けから局面を打開できる稀有なアタッカーで、昨シーズンは何度もPKを獲得した。

第7節ユベントス戦の劇的同点弾の場面のように、コレアは極小スペースでも突破できる。彼が戻ってくればラツィオの遅攻のクオリティは一段上がるはずだ。

その劇的同点弾を決めたフェリペ・カイセドの奮闘にも触れないわけにはいかない。インモービレが不在だった機関に決定的な同点ゴール・逆転ゴールを連発しチームを救った。

現在のラツィオが後半戦に巻き返せば上位が狙える位置につけられているのはカイセドの活躍のおかげなのだ。

カイセドのプレースタイルまとめ




守備

 

リトリートしてミドルプレス

ここからはラツィオの守備についてみてみよう。

ラツィオの守備時の基本的なアプローチはリトリートになる。ボールを失ったら近くの選手が相手の攻撃を遅らせるように前に立ち、その間にほかの選手が帰陣して5-3-2のブロックを整える。

2トップには相手の中央にいるアンカーの選手をマークすることが求められる。多くのチームでアンカーの選手はビルドアップのキーマンであるため、ここを消してしまえば相手は外回りにビルドアップせざるを得ない。

後方の5-3の選手たちも中央にボールを入れられないように、パスコースを切るような守備をする。無理してボールを奪いに行かず、陣形を崩さないことを最優先するので次第に相手は前進してくる。

しかし、ラツィオは慌てない。相手の前進に合わせて段階的に最終ラインを下げていく

これは中央を固めていれば簡単には点を取られないという自信もあるのだろうが、それ以上にボールを奪ったときにロングカウンターを仕掛けることが目的だろう。カウンターについては後述することにする。




中盤3枚の脇のカバーがカギ

5-3-2で守るとき、最大の焦点は「3」の脇をいかにしてカバーするかだ。通常ピッチの横幅を3人でカバーするのは難しい。アトレティコのような超ハードワーカーぞろいのチームなら話は別だが、ラツィオの両インサイドハーフ、ルイス・アルベルトとミリンコビッチ=サビッチはむしろ運動量が少ない部類に入る選手だ。

後方で人数が足りている場面ではウイングバックが前に出てきて縦方向のスライドで相手にプレッシャーをかける。

この形が一番シンプルだし、陣形も崩れずらい。問題はウイングバックの近くに相手のサイドアタッカーが張っているときだ。この状況でウイングバックを前に出すと、フリーになったサイドアタッカーを使われてしまう。

このような状況ではインサイドハーフを外に押し出し(1⃣)、サイドCBがひとつ前に出て空いた中盤のスペースを埋める(2⃣)。それに連動して最終ラインの残り3枚が中央にスライドしてきて空いたスペースを埋める(3⃣)。

このふたつのメカニズムを状況に応じて使い分けることでバランスを保っている。

インザーギ体制を通してこのシステム・この守り方で戦っているために完成度は高く、簡単にスペースを与えることはない。このあたりは違和感なくやれていて、ブロック守備の完成度は高いといえる。




キーマンはアンカー

問題は被カウンター対策だ。

ルイス・アルベルトは左サイドに開いてプレーし、ミリンコビッチ=サビッチはゴール前に入っていくためラツィオが攻撃しているときは真ん中にアンカーしかいない。さらに、この二人は帰陣が遅い。

それゆえラツィオのアンカーには卓越したポジショニングセンスが求められる。この選手がよいポジショニングをしていなければラツィオは簡単にカウンターを受けてしまうからだ。

その意味でアンカーの主軸、ルーカス・レイバは現在のチームで欠かせない選手だ。地味な仕事なのだが彼がいないとチームは大きくバランスを崩してしまう。

ルーカス・レイバの離脱の影響が如実に表れていたのが第7節ユベントス戦だった。

この試合でルーカス・レイバの代役として起用されたダニーロ・カタルディがたびたび持ち場を離れてしまったため、ラツィオは何度も何度もユベントスのカウンターを受けた。試合はカイセドの劇的なゴールで1-1の引き分けで終わったとはいえ、負けていておかしくはなかった。

中盤に一人しかいない以上、ラツィオのアンカーには「動かない」ことが求められる。対して、カタルディはむしろ機動力を生かして動き回りボールに絡むことで良さを発揮するタイプ。

両インサイドハーフに加えてカタルディまで前線へ出ていったため、中盤にだれもいない状態になってしまった。そのためカウンターを止めるファーストディフェンダーがいなくなってしまったのだ。これがラツィオが度々カウンターを受けた原因だ。

これはカタルディが悪いというより、ラツィオのアンカーとして求められている能力とカタルディが持っている特徴がかみ合っていないという話だ。

アンカーのポジションが悪ければここまで守備が崩壊してしまうということから考えても、ラツィオの最重要ポジションはアンカーだといって間違いない。

そういう意味で、新加入のゴンサロ・エスカランテはカタルディよりも適役だといえる。中盤に陣取ってボールハントを行うのがエスカランテの得意なプレーで、ルーカス・レイバの代役としてうってつけだ。

徐々にチームになじんだエスカランテは出場機会を増やしてきており、カタルディを完全に序列で上回った印象。

順調に経験を積んでいけば、ルーカス・レイバが復帰してからも併用されていくのではないだろうか。34歳とベテランになったルーカス・レイバの負担を軽減することは重要な課題だといえる。




トランジション

 

ポジティブトランジションではカウンター優先だが無理はしない

ラツィオの武器がカウンターであることはすでに述べた通りだ。

インモービレはロングスプリントで裏へ飛び出してそのままフィニッシュに持っていくプレーが得意で、この形からいくつものゴールを奪う。セリエA最高のアシストメーカーであるルイス・アルベルトがいることも彼を助けている。

ルイス・アルベルトは単独で持ち運ぶ推進力も持っており、彼が10~20メートル持ち運んでいる間にインモービレが動き出し、そこへ高精度のスルーパスを送り込むというパターンが確立されている。

右サイドで第2の矢となるのがラッザリだ。ロングスプリントは彼の最大の武器で、ボールを持てば数十メートルを独走できる。トップスピードに乗せたら止めることはほぼ不可能で、カウンターの申し子のような選手だ。ラッザリがいることでインモービレへのマークが分散する効果もあるだろう。

このように、ラツィオのカウンターは強力な武器なのだ。

とはいえ、相手のプレッシャーが早かったり後方に選手がそろっている場面では無理せず組み立てなおす判断を下すことも少なくない。特に最終ラインのビルドアップの完成度が高まっている今シーズンはその頻度が増えた印象だ。

 

ネガティブトランジションでは相手を遅らせその間に後退

ネガティブトランジションについては前出の通り。ボールの近くの選手が遅らせている間にブロックを組んでリトリートし、段階的にラインを下げていく。

左サイドに人数を固めているため左サイドでは囲い込んでの即時奪回が成功することもあるが、前からのプレッシャーの完成度はお世辞にも高いとは言えず、たいていは逆サイドにボールを展開され、その間に帰陣という流れが多い。

 




 

あとがき

ここまで苦しい戦いを送ってきたラツィオだが、ここにきて調子は上向いている。

直近3試合は3連勝で、7得点1失点と内容も素晴らしい。特にローマダービーでの完勝が意味するところは大きく、チームはさらに勢いに乗るだろう。

前半戦に離脱者が続出した影響で新加入の選手を多く起用せざるを得なかったが、それが逆に功を奏してチームの弱点だった選手層の薄さが改善されつつある。チームとしての一体感もあり、ポジティブな要素が目立つ。

これで3位ローマとの勝ち点差は3。まだシーズンは半分残っている。昨シーズンのような快進撃を再び見せられれば、CL出場権争いをかき回すだろう。

そしてベスト16に勝ち残っているチャンピオンズリーグにも注目だ。格上に対してはしっかり引いてカウンターを打てるラツィオは意外とバイエルンとの相性はいいにではないだろうか。バイエルンは今シーズンは失点が多く、付け入るスキはあるだろう。

シーズン後半戦のラツィオは各コンペティションでダークホースになるのではないだろうか。そんな予感が漂っている。

 

 

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