地政学の基礎概念 オフショア・バランシングとは?【地政学講義】

地政学の基礎概念 オフショア・バランシングとは?【地政学講義】

2021年1月12日 1 投稿者: マツシタ
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今回は地政学講義の第4回。オフショア・バランシングについて解説していこうと思う。

 

 

オフショア・バランシングとは?

前回の講義でバランス・オブ・パワーという概念について取り上げ解説したわけだが、今回の主題であるオフショア・バランシングはこのバランス・オブ・パワーの発展形になる。

オフショア・バランシングの定義は以下のようなものだ。

  • オフショア・バランシングとは、基本的には沖合から国際情勢を観察しつつ、のちに敵になりそうな勢力が現れたときには他国と協力して政治的・軍事的に介入し、その勢力の勢いを削ごうとする戦略のこと。

オフショア(offshore)という単語は off(離れて)+shore(岸)で構成された単語。つまり、岸から離れた方向、「沖合の」という意味を持つ。さらにそこから派生して「海外の」という意味も生まれた。

つまり、大陸とは離れた沖合(オフショア)から国際情勢を観察し、敵対勢力が現れたときにのみ戦って戦力均衡を保とうとする(バランシング)シーパワーの海洋国家の戦略のことなのだ。

だから、オフショア・バランシングを簡単にまとめるとこうなる。

  • オフショア・バランシングとは、シーパワー覇権国家のバランス・オブ・パワー戦略である

このことは歴史を見ても明らかだ。これまでに覇権を握ったシーパワー国家、イギリスとアメリカが世界をコントロールした戦略こそがオフショア・バランシングなのだ。

それぞれ具体的に見ていこう。

 

 

イギリスのオフショア・バランシング

イギリスはその海軍力を武器に世界中に植民地を広げ、そこで自国製品を売って世界に冠たる覇権国家になった。

当時のイギリスの基本的な対外戦略は傍観だ。大陸で起こった戦争にはできるだけ関与せずにオフショアから監視する。

イギリスが介入するのはバランス・オブ・パワーを崩すような強大な勢力が現れたときだけだった

具体的には、無敵艦隊を誇った16世紀のスペイン、ナポレオンがヨーロッパを蹂躙した18世紀後半~19世紀初頭のフランス、ヒトラーのもと軍拡を進めた第二次世界大戦期のナチスドイツ、終戦後に一気に共産圏を拡大した冷戦期のソ連がイギリスの敵対勢力とみなされた。

スペインに対してはイギリスが自ら対処したものの、フランスに対してはヨーロッパの国々に呼び掛けて対仏大同盟を組んで周囲の国と協力して対処。ナチスドイツに対しては連合国軍の、ソ連に対してはNATOの一員として対処した。

いずれも周囲の国と協力しながら、自らの犠牲を最小限にしつつバランス・オブ・パワーを保ってきたのだ。いざという時にだけヨーロッパの国々と協力する、これがイギリスのオフショア・バランシングである。

 

 

アメリカのオフショア・バランシング

第一次大戦を機にイギリスから覇権国家の地位を引き継いだアメリカ。その後はイギリスを真似するかのようにオフショア・バランシングを行うようになっていった。

アメリカのオフショア・バランシングの基本戦略は、その時代のナンバー2の国に対してナンバー3の国と協力して対応するというものだ。

冷戦期にはソ連が急速に台頭してアメリカを脅かす世界ナンバー2の国に成長してきた。これに対し、アメリカはEUを結成して巨大な「ナンバー3の国家」となりつつあった西ヨーロッパ諸国と組んだ。EU諸国とともにNATOを結成してソ連に対処したのだ。

同時に、ソ連の勢力を食い止める防波堤にするために日本の戦後復興を支援し、対ソ連で協力した。

ところが日本が急速に経済成長を果たして世界第2位の経済大国に成長し日米貿易で赤字が拡大すると、アメリカは自ら貿易戦争を仕掛けるだけでなく、中国に対しても支援を行って日本の勢いを削ごうと努めた。

そして現在はその中国が急速に台頭して日本を追い抜きナンバー2に。貿易赤字の拡大から貿易戦争へという流れは日本に対するものと同じだ。アメリカは今度はナンバー3の日本と協力して中国の勢いを削ごうとしているというわけである。

日本を叩くために中国を支援して成長を促したかと思えば、今度はその中国を叩くために日本と協力する。なんとも自分勝手な話だが、世界が地政学的リアリズムで動いている証拠だともとらえられるだろう。

 

アメリカの日本との対立と中国との対立は同じような流れだと説明したが、当時の日本と中国との間には明確な違いがある。

当時の日本はアメリカとは同盟関係にあり、安全保障の面でアメリカに頼り切っていたためにアメリカから覇権を奪うつもりなどなかったし、事実上不可能だった。

ところが、中国は違う。明確にアメリカに挑戦し、世界の覇権を奪おうとしているのである。そういう意味で、アメリカと中国の対立は世界の覇権をかけた争い、グレート・ゲームだといえるのだ。

このグレート・ゲームの説明については、次回以降の宿題としたい。

 

 

  • 前回の講義

地政学の基礎概念 バランス・オブ・パワーとは?【地政学講義】

 

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