【躍進するミニアタランタ】エラス・ヴェローナの戦術を徹底解剖!

【躍進するミニアタランタ】エラス・ヴェローナの戦術を徹底解剖!

2020年12月29日 10 投稿者: マツシタ
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今シーズンのセリエAは面白い。絶対王者ユベントスは現在6位とまだピルロ新体制が軌道に乗り始めた段階で、例年のような独走にはなりそうにない。連覇が止まる可能性も大きいだろう。

結果として「新セブン・シスターズ」と呼ばれる強豪7チーム(ユベントスインテルミランナポリローマラツィオアタランタ)に新興勢力のサッスオーロとヴェローナが絡んでリーグは混とんとしている。ここまで各チームの力の差が詰まったシーズンは久しぶりだ。順位表が最終節まで入れ替わるスペクタクルなシーズンになるだろう。

今回紹介するのは下馬評を覆して上位争いに絡み、リーグの均衡に一役買っているエラス・ヴェローナである。ここまでアタランタ、ラツィオに勝利しミランユベントス、ローマとは引き分け。インテルには惜しくも敗れたものの、優勝を争うとされる強豪5チームとの試合で勝ち点を持ち帰ることに成功している。まさにリーグの台風の目的な存在だ。

ヴェローナはその特殊な戦術でも注目を集めている。マンツーマンを軸に置いた激しいプレッシング、そこから縦へ素早く持ち運ぶ速攻。これらはアタランタに通じるところがあり、現地でも「ピッコロ・アタランタ」、英語に訳すと「ミニ・アタランタ」と呼ばれている。

今回は、そんなヴェローナの戦術について徹底的に掘り下げていこうと思う。




ヴェローナの基本フォーメーションと戦術概要

 

基本フォーメーション

システムは3-4-2-1を採用。GKにはイタリア代表デビューも果たしたシルベストリがいて、その前にいずれも対人守備に特徴があるチェッケリーニマニャーニロバートを並べる。ロバートは今季ブレイク候補筆頭の20歳で、すでにミランへの移籍が噂されている。しかしながら、ここ数試合は負傷の影響でプレーできておらず、代役としてポーランド代表のダビドビチが出場機会を得ている。

中盤は運動量豊富なタメズが軸。相方にはポルトガル代表で50試合以上に出場したベテランのミゲル・ヴェローゾかマンCが保有権を持つ19歳のイリッチが入る。両者ともに組み立て能力に優れたパサータイプだ。ウイングバックは右にファラオーニ、左にディマルコとスピードとクロスが特徴の選手を配する。控えのラゾビッチも同タイプで、両サイドをこなす。

シャドーには長身で強さと巧さを兼備するバラクとイタリア代表に初召集された絶好調のザッカーニ。センターフォワードは本来ならカリニッチを使いたいのだろうが、ここまでは負傷続きで戦力になれていない。代役のディ・カルミネも負傷してしまったため、ここ数試合は19歳のサルセドが出番を得ている。




戦術概要

ヴェローナの戦術は前述の通り。マンツーマンでの激しいプレッシング、縦志向の強い攻撃というアタランタと共通の特長を持つ。

それもそのはず、ヴェローナの指揮官イバン・ユリッチはアタランタのジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督の弟子筋にあたり、恩師の影響を強く受けているのだ。

しかしながら、アタランタとヴェローナは似て非なるチームだ。スタッツを見てみると、ヴェローナはアタランタほどの攻撃力はないもののアタランタよりも守備が安定していることがわかる。ここまで13節終了時点で12失点に抑えており、この数字は王者ユベントスに次いでリーグ2位タイだ。

同じ戦術を採用していながら、アタランタは爆発的な攻撃力に特徴があるのに対してヴェローナはリーグ屈指の堅守を武器としているのは面白い違いだ。

さらに、選手が違えば当然戦術もそれに合わせて変化する。今回は「本家」とヴェローナの間にある共通点や異なる部分についても触れていきたい。




攻撃

 

ビルドアップでは左サイドからの前進が多い

ヴェローナの攻撃はビルドアップから崩しの局面まで左サイドに偏っている

ビルドアップは基本的に縦に速くだ。そのため、横パスが非常に少ない。前が空いていれば素早く縦に展開するし、無理なら後ろに下げ、横につなぐことはしない。最終的にはGKのシルベストリまで下げて、そこからロングボールを蹴ることが多い。アタランタがじっくりつないでビルドアップすることが多いのとは対照的だ。

ヴェローナはアタランタと比べると選手の質で劣るため、つなごうとしても限界がある。それに相手に引かれてスペースがなくなると崩せるタレントもいない。だからスペースがあるうちに素早く攻め切ってしまおう。そんな狙いがあるのではないだろうか。

縦への意識がよくわかるのが、ウイングバックにボールが入った時にサイドCBがインナーラップを仕掛けるという原則だ。引いてきたウイングバックにボールを渡したCBは、そのまま縦に走り抜けて相手をひきつけるのだ。

サイドCBの積極的な攻撃参加という特徴は本家同様。どんどん縦に選手が飛び出していくことで縦へ縦への攻撃を加速させる。

こうした流れに変化をつけられるのが経験豊富なカピターノミゲウ・ヴェローゾだ。

正確な左足を持つ彼はビルドアップにおいて左斜めに降り、サイドバックのような立ち位置から縦パスを供給する。

彼のパスから前進することが多くなっており、このことがヴェローナのビルドアップが左に偏る原因となっている。




崩しも左から

左サイドからボールを前に運んだあとの振る舞いはどうだろうか。

片方のサイドからボールを運んだあとサイドチェンジをするチームもあるが、ヴェローナはほとんどの場合サイドチェンジを行わずに左サイドから攻め切ってしまうことが多い。片方のサイドに人数を集めて密度を高めるオーバーロードだ。

ペップ率いるマンCのように、逆サイドに広大なスペースを生み出すためにあえてオーバーロードを用いるチームもあるが、ヴェローナのオーバーロードの狙いは守備面にあるだろう。密度が高まっていればボールを失ったとしても即座に相手を囲い込むことができるのだ。これはシメオネのアトレティコと同じ発想だ。

ちなみに本家アタランタは右サイドからの前進が多く、そのあとは左サイドにサイドチェンジすることが多い。ヴェローナとの大きな違いである。

また、ヴェローナが左サイドから崩しを行うのは単純に左サイドに強力な選手を擁しているからという選手起用面からの理由もあるだろう。

ヴェローナの崩しの核となるのが左ウイングバックのフェデリコ・ディ・マルコ、そして左シャドーに入るマッティア・ザッカーニである。この二人の連携がヴェローナの攻撃の肝だ。

ザッカーニは10月にイタリア代表への初召集を受けた25歳のテクニシャンで、チャンスメイクの役割を担っている。

彼がボールを持った時には常にディ・マルコがサポートランを見せる。内外の走りわけも適切で、ザッカーニのスルーパスを引きだし、そこから高精度の左足クロスを送り込むのがヴェローナの崩しのパターンになっている。

ザッカーニのプレースタイルまとめ

ディマルコのプレースタイルまとめ




得点力不足の原因は?

それでは、ヴェローナがアタランタと比べて得点が少ない理由は何なのだろうか。

まず、前提として選手のクオリティーの差がある。CLでベスト8に入るアタランタとセリエA昇格2年目のヴェローナでは、さすがに大きな差があるのは仕方がない。

アタランタは前線だけでなく両ウイングバックや中盤の選手たちにも得点力があり、どこからでも点が取れる。相手にひかれてもそれをパワーでこじ開けられるサパタのような選手もいる。ヴェローナにはそこまでのタレント力はない。

だが、それだけが原因のすべてでもないように見える。それは両チームのビルドアップの違いにあるだろう。

アタランタはショートパスをつないでじっくりビルドアップすることが多いため、その間に多くの選手をゴール前に送り込むことができる。クロスに対して4,5人の選手が飛び込んでいく場面も少なくない。

反面、ヴェローナは縦に素早く攻撃するため、後方の選手がゴール前に入ってくる前に攻撃が完結してしまう場面も多い。そのため、ゴール前にかける人数が多くならないのだ。

こうした戦術的な違いによっても得点力に差が出ていると考えられる。




守備

 

マンツーマンによるハイプレスを敢行

それでは、ヴェローナの守備の原則を見ていこう。

ヴェローナの守備原則はマンツーマンである。相手選手に基準点を置き、フィールドに1対1を10個つくってデュエルを仕掛ける。

しかも、ヴェローナの守備の開始点は非常に高い。相手GKからDFラインに出た1本目のパスがもう合図で、そこからじわじわとプレスをかけて相手から自由を奪っていく。守備時のアグレッシブさは本家アタランタ以上だ。

このハイプレスがしっかりと機能していることがヴェローナの失点数が少ない理由だろう。




ヴェローナの守備が堅い理由

さらに特筆すべきは、マンツーマンという1対1を基本とする守備方法を取りながらも要所要所では数的優位を作れている点だ。

アタランタがほぼ常に1対1で対応するのに対し、ヴェローナは自陣ゴールに近い位置では2対1で対応するメカニズムになっている。これも、選手一人一人のクオリティの不足を補うためだろう。

基本は自分が受け持つ相手がいるものの、適切なタイミングでそれを捨てて味方のフォローに動く。捨てられた選手を後方で余っている選手が「拾う」受け渡しもスムーズだ。この一連の流れがとても円滑に回っている。

選手一人ひとりの判断の的確さに支えられているこの組織的な守備は、ビッグクラブといえども崩すことは容易ではない。ここまで完成させたユリッチの手腕は称賛に値するだろう。




勝っている場面では引いて守る選択肢も

アグレッシブな守備が持ち味のヴェローナだが、勝っている場面では高い位置からのプレッシングを放棄して自陣に引きこもり守備を固めるという選択肢も持っている。

この組織的守備も完成度は高い。特に3CB+タメズはフィジカル的な強さがあって跳ね返しはお手の物。中央をがっちり固めてしまえばそう簡単にはゴールを奪われない。実際、リードしたまま逃げ切ってしまう試合は多い。

プレッシングの完成度が高いチームは得てして引いて守ることが苦手なものだ。本家アタランタも引いて守る展開は苦手に見える。

その点、ヴェローナは珍しい両刀使いだといえる。高い位置からの激しいプレスで相手の自由を奪ったかと思えば、終盤にはがっちり自陣に引いて守り切る。展開に応じた柔軟な戦いができるヴェローナを試合巧者と評するメディアも多いが、まさにその通りだ。




トランジション

 

ポジティブトランジションでは速攻を狙う

ヴェローナの攻撃が縦志向が強いことは前述の通りだ。ポジティブトランジション時も同様で、ボールを奪ったらまず縦へボールを展開しようとする。

ここで重要になってくるのが最前線の選手だ。多くの場合、ヴェローナはボールを奪ったらすぐさま最前線の選手めがけてロングボールを蹴る。ここに入る選手がボールをキープしてくれなければチームを押し上げることができないため攻撃にならない。1トップはヴェローナの戦術上のキーマンだといえる。

その戦術上のキーマンがだれなのか固まり切っていないのはヴェローナにとって苦しいところだ。最前線の主軸としての活躍を見込んで獲得したカリニッチが、ここまでは負傷続きで使い物になっていない。同じく新加入のファビッリ、最もキープ力があるように見えるディ・カルミネも同様だ。

この状況を受けて、ここ数試合はエディ・サルセドが最前線に起用されている。

インテルが保有権を持つ19歳の有望株はシャドーで出場機会を増やし、柔軟なボールタッチでブレイクの兆しを見せていた。

この活躍を受け、ここ数試合は最前線での先発起用が続いているものの激しい寄せを多く受ける中央では苦戦中。私には1トップはサルセドにとって最適なポジションではないように見える。前を向いてこそ力を発揮するシャドー向きの選手だろう。

ここまでのヴェローナの得点数は18と、最下位トリノよりも少ない数字にとどまっている。最前線が固まっていないことに原因があるだろう。

ラツィオ戦では本来中盤が本職のタメゼが最前線で起用されるなど、ユリッチは試行錯誤を続けているもののまだ納得できる選手は見つかっていないようだ。

得点力不足解消のためにも最適解の発見を急ぎたいところだ。

 

ネガティブトランジションでは即時奪回を狙う

ネガティブトランジションでは即時奪回を目指して激しいプレスをかける。オーバーロードのところでも説明したように、密集からボールを出させないように囲い込む。

この守備はかなり機能している。全員にすばやい攻守の切り替えが徹底されており、相手が苦し紛れに蹴ったボールを回収することができているのだ。




あとがき

「本家」アタランタは育成クラブとしての側面も持っている。自前で選手を育てて売却し、それで得た移籍金収入で健全経営を続けている。

主力選手を売却してもまた新たな有望株が出てくるため、戦力が落ちない。そのサイクルが実を結び、イタリア屈指のクラブへ成長したのだ。

実は、ヴェローナも同様の性質を持っている。過去にさかのぼれば現チェルシーのジョルジーニョをはじめ、アンテ・レビッチ(ミラン)、モイゼ・ケーン(PSG)、ピエルルイジ・ゴッリーニ(アタランタ)らはいずれもヴェローナから巣立った選手だ。

昨シーズンの躍進により今夏には主力4人(アミル・ラフマニ(ナポリへ)、マラシュ・クンブラ(ローマへ)、ノルディン・アムラバト(フィオレンティーナへ)、マッテオ・ペッシーナ(アタランタへ))をごっそり引き抜かれ、戦力ダウンが心配された。

しかし、今シーズンもロバートにイリッチ、ザッカーニにサルセドと「次世代」が着実に育っている。

バラクやチェッケリーニ、タメゼら中堅どころの新戦力も軒並み活躍しており、補強の的確さも光る。

この好循環を回していけば、数年後にはアタランタのようにイタリアの強豪としての地位を確立できるかもしれない。

ミニ・アタランタは本家アタランタを超えられるか。そのプロジェクトは注目に値するだろう。

 

 

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