【モダンな攻撃サッカーで躍進】サッスオーロの戦術を徹底解剖!

【モダンな攻撃サッカーで躍進】サッスオーロの戦術を徹底解剖!

2020年12月14日 11 投稿者: マツシタ
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今シーズン、セリエAは大混戦の様相を呈している。ユベントスの不振にその他強豪クラブの好調が重なった形だ。新セブン・シスターズ(ユベントスインテルミランナポリローマラツィオアタランタ)を中心に力は均衡している。

「中心に」と書いたのは、例外がいるからだ。この7チームに加わって上位戦線をかき回す台風の目となっているのが、サッスオーロだ。

ここまで6勝4分1敗で5位と好調で、一躍注目を浴びている。

結果だけではなく、その特異な戦術もまたサッスオーロがサッカーファンに注目される理由だ。サッスオーロを率いるロベルト・デ・ゼルビはイタリアのペップと呼ばれており、実際にグアルディオラ本人とも親交がある。デ・ゼルビはグアルディオラから影響を受けたことを公言しているが、グアルディオラもまたサッスオーロの試合をチェックしていることを明かしている

稀代の名将にも一目置かれるサッスオーロのサッカー。理想と結果を両立するそのスタイルとはいったいどのようなものなのか。今回は、サッスオーロの戦術について掘り下げていこうと思う。

 




 

基本フォーメーションと戦術の概観

まず最初に今期のサッスオーロの基本フォーメーションと大まかな戦術の方向性についてみてみよう。

 

基本フォーメーション

基本システムは4-2-3-1と紹介されることが多いためそれに従ったが、4-1-4-1に近いように見える。

ロカテッリがレジスタ的にふるまってゲームを組み立て、ジュリチッチとロペスがインサイドハーフ的にバランスをとる。両ウイングには打開力に優れたボガとベラルディがいて、ここが崩しの肝だ。本来なら1トップにはエースのカプートがいるものの、現在負傷離脱中。代役のドゥフレルも負傷しているため、本来は2列目のアタッカーであるラスパドーリを偽CF的に使っている。

最終ラインは運動量と攻撃力を兼ね備えたロジェリオ、トリャンを軸に、同タイプのミュルドゥルとキリアコプーロス、CBと兼任のアイハンも出番が多い。このポジションでローテーションがさかんに組まれているのは、高い運動量が求められるからだろう。(細は後述する)。中央にはベテランのキリケシュとフェラーリがいて若いチームを支えている。GKのコンシーリもベテランだ。コンシーリはもともと組み立て能力があるGKではなかったが、デゼルビの指導を受けて足元のテクニックに優れたGKに変貌。最終ラインからの配給役として機能している。

 




 

ここ2試合での変化

実は、ここ2試合での選手起用には変化が生じている。

これまでロカテッリの相棒として定着していたマキシム・ロぺスはトップ下タイプの選手で、パスを散らして組み立てるといった攻撃力に特徴がある選手だ。

中盤セントラルに攻撃的な選手を置くのはサッスオーロらしい起用法だといえるが、ここ2試合ではロペスをトップ下に、トップ下にいたジュリチッチを1トップにずらし、ロカテッリの相棒にはより守備力に長けたバランサータイプの選手を置いている(ローマ戦ではオビアング、べネベント戦ではブラビア)。

契機となったのは初黒星を喫したインテル戦。0-3と完敗したことで、デゼルビは守備面の整備に乗り出したのだ。

この微調整が奏功して、以降の2試合ではともに無失点に抑えている。今後はこの形がメインとなっていきそうだ。

 




 

基本的な戦術の狙い

サッスオーロの戦術を乱暴にまとめてしまうならば「ポジショナルプレー」だ。手本とするペップのマンCと同じく自分たちがボールを握ることで試合を支配し、各選手のポジショニングを整えることで優位性を作り出し、それを生かしていく攻撃的なサッカーだ。

守備の基本的な狙いが即時奪回であることもマンCと同じだ。自分たちが常にボールを握ることを重視する、モダンなスタイルを掲げている。

9節終了時点の平均ボール支配率が60%を超えていることからも、サッスオーロがペップを模した攻撃サッカーを展開していることがわかるだろう。インテルやナポリといった格上に対しても、一人退場となり数的不利に陥った後でもボールをしっかりとつなぐスタイルを変えないのだからかなりの自信があるのだろう。

実際、チームの完成度は高い。デゼルビ体制3年目となる今シーズン、新加入で出番を得ているのはロペスだけだといっていい。ビッグクラブへの移籍が噂された主力選手も軒並み残留し、昨シーズンからスカッドがほとんど変わっていない。だからこそ、チームに戦術が浸透しているのだ。

それでは、そんなサッスオーロの戦術について各局面別に詳しく見ていくことにしよう。

 




 

攻撃

 

低い位置からの丁寧なビルドアップ

低い位置からのビルドアップはサッスオーロの生命線だ。GKのコンシーリも組み込んで低い位置から丁寧に組み立てていく。

ビルドアップに関わるのはDFラインの4枚にGKのコンシーリ、レジスタのロカテッリ。場合よってロカテッリと組むセントラルMF、もしくはトップ下のジュリチッチが降りてくることもある。

両CBとGKの3枚で回しながら、サイドバックもしくはロカテッリへのパスコースをうかがう。相手が前からプレッシングしてきて後方にスペースが空けば、コンシーリが中盤に降りてきたジュリチッチに直接パスを配給することも多い。

サイドバックにボールが入ればもうひとつ前方のサイドハーフへボールを運ぶことが多い。そのあとは基本は同サイドで突破しようとするけれども、攻撃が詰まってしまったらロカテッリに預け、ここからサイドチェンジを飛ばす。

図のように左サイドから前進し、右のベラルディもしくはトリャンへという展開は多い

この時に注目したいのがボールがあるのとは逆サイドのサイドバックのポジショニングだ。中央に生まれている広大なスペースをカバーするように、中に絞ってくる動きを欠かさず行っている。

ボールを奪われたときに使われたくないスペースを埋めておくこの動きは予防的マーキングという。非常に攻撃的なサッスオーロにおいても、守備の国イタリアのチームらしいアレンジが見られるのはおもしろい。

ペップのチームではそのまま内に絞ったサイドバックが中盤でパスを受けるプレー(いわゆる偽サイドバック)も見られるが、サッスオーロのサイドバックに求められているのはあくまでもタテの上下動だ。ボールが自分のサイドに入れば、猛然とタッチライン際を疾走してサイドアタッカーのサポートに走る。

1試合に何度もロングスプリントが求められるサイドバックの役割は非常に消耗が激しい。だからこそデゼルビはサイドバックに関して積極的にローテーションを組んでいるのだろう。

一方、CBから直接ロカテッリにボールが入れば前線の4枚が一気に裏へと動き出してスペースをアタックする。それにつられてDFラインが下がったら、浮いているセントラルMFの片割れ(図ではロペス)にボールを入れる。

この一連の流れは完成されていて、非常にスムーズだ。

 




 

スムーズなボール循環の秘訣は適切なポジショニング

それでは、サッスオーロはなぜ安定してボールを保持し、試合を支配できるのか。その秘訣は各選手の立ち位置が非常に整理されていることだ。

誰かが動いたら、そこにスペースが生まれる。そこへほかの選手が動いて、またスペースが空いて、また動いて…というように、選手が次々と動いて空いたスペースを埋めていくため、常にチームのバランスが崩れない。

下の図に示したメカニズムは、サッスオーロのビルドアップにおいて頻繁に表れるものだ。まずロカテッリが左斜めに落ちて、攻撃的なサイドバックのロジェリオを前線アウトサイドに送り込む。そして、ロカテッリが動いたことで空いた左ハーフスペースにボガが入ってくるのだ。

図1

こうすることでロジェリオの攻撃力を生かせるし、組み立ての軸であるロカテッリはプレッシャーが激しい中央から逃れ、比較的自由にプレーすることができる。

おそらく、基本的な立ち位置だけが決まっていて、そこにいる選手は誰でもいいのだろう。「いるべき場所」が整理されているから選手が流動的に動いてもバランスが崩れないのだ。

これはまさにポジショナルプレーの特徴だ。これをチームが実践できているということはデゼルビが自らがやりたいサッカーをチーム全体に浸透させることができているということに他ならない。

 




 

組み立ての目的は裏のスペースへボールを送り込むこと

しつこいほどに最終ラインからパスを回して組み立てるサッスオーロ。その最終的な狙いは相手DFラインの裏にボールを送り込むことだ。

その1つ前段階として中盤に引いてきた選手の足元へ鋭いくさびを当てる。このパスで第1プレッシャーラインを突破すると、パスの受け手が素早く前を向く、もしくは一つ後ろに落とす。落としを受けた選手は前を向いていることになるので、いずれの形でも前向きの選手を作り出せている。

このタイミングで、前線の選手が裏へ一気に動き出す。ここへシンプルにスルーパスを出すプレーが多いのがサッスオーロの特徴だ。

特に裏へのランニングをさかんに見せるのがトップ下に入っているフィリップ・ジュリチッチだ。

つまり、ディフェンシブサードでのビルドアップでは正確性を重視してゆっくりとしたリズムで組み立て、敵の第1プレッシャーラインを突破しミドルサードに入った瞬間に攻撃を一気に加速させてに相手ゴールに迫るというのがサッスオーロの攻撃の流れなのだ。

 




 

ロカテッリがリズムを変える

この攻撃においてリズムを変える役割を果たすのがマヌエル・ロカテッリである。彼が今のサッスオーロの心臓だ。

アンカーの位置をとって最終ラインを助けるとともに、前を向けば積極的にスルーパスを送り込む。ロカテッリが前を向いた時には、ほとんど必ずといっていいほど前線の選手たちが動き出していて、おそらくチームとしての約束事として落とし込まれているのだろう。

また、相手を押し込んで詰まった時にサイドチェンジで局面を変えるのもロカテッリの役割だ。サッスオーロは基本的にショートパスを駆使して攻撃していくチーム。たまに最終ラインの選手から相手DFラインの裏へのロングボールが出ることがあるものの、基本的にはロカテッリのみにロングボールが許されている。

相手チームは当然ロカテッリがビルドアップの中心だとわかっており、ここにマンマークを当ててくることも少なくない。その場合に用いられるのが図1のメカニズムである。本来は左サイドバックがいる位置に移動することで相手のマンマークから逃れたロカテッリは、この位置からゲームメイクできる。このメカニズムもあって、サッスオーロの攻撃は左サイドに偏ることになる。

 




 

前線の個を生かした崩し

相手が低い位置にがっちりとブロックを組んでしまい、DFラインの裏にスペースが見いだせないときには、両ウイングが独力で局面を打開する役割を果たす。マンCでペップがそうするように、デゼルビもまたウイングに強力な個人技を持つ選手を配する。

左には「セリエのドリブルキング」の異名を持つジェレミー・ボガ。2020年のドリブル成功数でメッシを上回ったボガは非常に細かいタッチのドリブルが特徴で、狭いスペースでもスルスルと持ち運んで突破できる。さらにブロックの外から理不尽なミドルシュートでゴールを奪うこともできる、強烈な選手だ。

ボガのプレースタイルまとめ

 

左のドメニコ・ベラルディも負けてはいない。ボガほどの局面打開力はないものの、得点力ではボガを上回る。タイミングよくスペースに入り込んで正確なシュートでゴールを奪う。さらに、決定的なパスを出して味方のゴールをアシストするトップ下的な役割も果たせる。イタリア代表に選ばれるほどの実力がありながらサッスオーロ一筋を貫いてきたバンディエラでもあり、クラブにとって欠かせない選手だ。

ベラルディのプレースタイルまとめ

 




 

守備

 

基本戦術はハイプレス。引いて受けるようなことはしない

それでは、サッスオーロの守備についてみてみよう。

サッスオーロは、守備時には高い位置からのプレッシングを行う。陣形が整えばすぐさまプレッシングを開始し、決して低い位置で構えるようなことはしない。

マンツーマンでボールホルダーの周囲のパスコースを消していく。このとき、ボールを奪いきるというよりも徐々に圧力をかけてミスを誘うようなプレッシングを行うことが特徴だ。無理をしないことで大きく陣形が崩れることを避けると同時に、相手がミスって自分たちがいい形でボールを奪うことができれば、そのまま速攻を仕掛けることができるからだろう。

このプレッシングの精度も試合ごとに高まっており、直近の6試合のうち5試合でクリーンシートを達成している。これは驚異的な数字だ。

攻撃面がピックアップされがちなサッスオーロだが、守備力についてもリーグトップクラスだといえる。

 




 

弱点は中盤の強度不足。バイタルエリアが泣き所

しかしながら、サッスオーロの守備にも弱点は垣間見える。それが、バイタルエリアの薄さである。

サッスオーロは守備時には4-1-4-1の形をとって前の「4-1」、さらにボールがあるサイドのサイドバックがハイプレスに参加、相手DFラインに圧力をかける。

その結果として、MFラインと最終ラインとの間に生じる広大なスペース、いわゆるバイタルエリアをロカテッリが1人でカバーする必要があるのだ。

このバイタルエリアを使われまくったのが0-3で完敗したインテル戦だった。ロカテッリは守備面で日進月歩の成長を遂げているとはいえ、さすがにこのスペースはひとりではさばききれない。結果としてロカテッリがファウルで止め、イエローカードをもらう試合も少なくなかった。

これを受けたデゼルビは、守備時の基本陣形を4-1-4-1から4-4-2に変更、危険なスペースに二人のMFを置いたことでさらに守備に安定をもたらした。

4-4-2を採用すると前線からのプレッシングに参加する選手が「4-1」の5人から2トップ+両サイドハーフの4人に減るため、プレッシングの開始位置も少し低めに変更している

ミドルサードに4-4-2でコンパクトなブロックを形成し、そこから徐々に前に出ていって人を捕まえていく形に変更したのだ。

この戦術変更はここまでうまくいっており、直近6試合で5試合が無失点であることは前述の通りだ。

このように見ていくと、デゼルビの戦術変更の的確さが光る。それぞれの試合で明らかになった課題に素早く対処しチームを少しずつ改善していくことができる監督はそう多くない。ロベルト・デゼルビは名将といっていいだろう。

 




 

トランジション

 

ポジティブトランジションではボール保持の確立を優先

ポジティブトランジションでは、カウンターに出るよりもボール保持の確立を優先している印象だ。

低い位置でボールを奪ったときには無理にボールを前進させることはせず、安全な選手へボールを渡して自分たちのポジショニングを整えなおす。そうして、低い位置からの組み立てに移行するのだ。

 

ネガティブトランジションでは即時奪回を目指したハイプレス

一方、ネガティブトランジションでは即座に切り替えてボールを奪いに襲い掛かる。サッスオーロの理想はあくまで自分たちがボールを握ることで試合を支配すること。そのために、1秒でも早くボールを奪い返す必要があるのだ。

守備の項で説明した前線のプレッシングの時と比べると、ボールを失った直後には激しい守備が多く、結果としてファウルになることもしばしばだ。

 




 

あとがき

昨シーズン、「プロビンチャの躍進」としてアタランタが注目を集めた。CLのベスト8ではパリ・サンジェルマン(のちに準優勝することになる)を後半ロスタイムまでリードして追い詰めたし、セリエAでも自分たちよりも予算規模が大きな他クラブを押しのけて3位に入った。

本拠地のベルガモがコロナウイルスの被害が最も大きな都市のひとつであったことでも話題となったアタランタ。ホームタウンを勇気づける躍進を見せたことでガスペリーニ監督には名誉市民の称号が送られている。そんなベルガモは人口12万人の小都市だ。

しかし、サッスオーロという町はベルガモよりもさらに小さい。人口はベルガモのわずか3分の1である4万人だ。これは、ユベントスのホームスタジアムであるアリアンツスタジアムの収容人員と変わらない。こんな小さな町からチャンピオンズリーグに出場することにでもなれば、それこそアタランタを超える快挙だろう。

だが、ここまでの戦いぶりを見ていればサッスオーロがチャンピオンズリーグ出場権を獲得する可能性は決して低くはないように思う。少なくとも、5年前に達成した過去最高位(6位)を超えることは十分に可能だろう。

デゼルビは言った。「我々は遅かれ早かれCLに到達する。」有言実行が現実味を帯びてきた。

 

 

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