【10年ぶりのスクデットへ】ACミランの戦術を徹底解剖!

【10年ぶりのスクデットへ】ACミランの戦術を徹底解剖!

2020年12月5日 15 投稿者: マツシタ
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今、ミランが強い。昨シーズンのコロナウイルス感染拡大によるリーグ戦中断が明けてからは、いまだにセリエA無敗。およそ半年にわたって無敗記録が続いているのだ。

昨シーズンにはシーズン終了後のラルフ・ラングニック招聘が確実と報道されていた中で、現監督のステファノ・ピオーリは文句のつけようがない結果を出してこれを撤回させ、2022年6月までの契約延長を勝ち取った。

そのピオーリが作り上げたチームは昨シーズンのベースを引き継いで熟成期に入っており、高い完成度を誇る。

新シーズンも無配を維持して首位に立つミラン。その完成された戦術とはいったいどのようなものなのか。今回はミランの戦術について徹底的に掘り下げていこうと思う。




ミランの基本フォーメーションと戦術の概要

 

基本フォーメーション

ミランのスターティングメンバーはこの11人で固定されている感がある。GKには21歳ながらイタリア代表でも正守護神を担うドンナルンマが君臨し、CBはロマニョーリとケアのコンビが鉄板。サイドバックは左に攻撃的なテオ、右によりバランス型のカラブリアを配する。

中盤はフィジカルを生かした守備が特徴ながら得点力もある万能型のケシエとレジスタとしてボールを散らすべナセルがコンビを組み、2列目にはスピードあふれる仕掛けが武器のレオン、イブラとのコンビがさえわたる絶好調のチャルハノール、攻守に走れるサーレマーケルスが並ぶ。1トップにはチームの王様、イブラヒモビッチだ。

この11人で連携が完成されており、組織としての完成度は非常に高い。

しかしながら、選手層が低いわけでは決してない。代わりに出場した選手の質が低いようでは、世界最高峰のセリエAで首位に立つことはできない。

センターバックでは21歳のガッビアが急成長し負傷欠場していたロマニョーリの穴を不足なく埋めていた。サイドバックにはELでゴールを決めたダロと昨シーズンは主力だったコンティが控える。

中盤にはイタリア期待のホープであるトナーリがいるし、2列目・1トップでスタメン組と遜色ない働きが見込めるレビッチをはじめカスティジェホ、ハウゲ、クルニッチ、ブラヒム・ディアスと攻撃陣は多士済々だ。

彼らがスタメン組が離脱した時も途中出場した時も高質のプレーでチームに貢献しているからこそ、今のチームは安定感があるのだ。

ミランのメンバー構成については、下のリンクに詳しくまとめたのでそちらも参考にしてみてほしい。

【メンバー紹介】ACミランの全選手一覧・簡単なプレースタイルの紹介




戦術の概要

今のミランは攻撃、守備ともに完成度が高く隙が無いチームに仕上がっている。

細かい理由やその分析はほかの項に譲るとして、ここでは全体的な話をしよう。

おそらく、今のミランがかみ合っている理由は主力選手のプレースタイルに合った戦術を採用しているからだろう。ケアにべナセルとロングボールの質が高い選手が多いから、縦に速いビルドアップがハマる。ロングボールの受け手となるイブラヒモビッチもポストプレーに関してはいまだトップレベルだ。

カウンター攻撃の質が高いのも、推進力がありボールを運べる選手がそろっているからだろう。主力でいえばレオンチャルハノールサーレマーケルス、レビッチと2列目の選手は全員運べるし、左サイドバックのテオも推進力が持ち味だ。今は出番が少ないが、今シーズン新加入のトナーリもこうした推進力を武器のひとつとする。

彼らの特性と攻撃時にタテを意識する戦術が見事にかみ合い、迫力ある攻撃が実現しているのだ。

このように、選手一人一人が無理をしなくても「自然体で」噛み合う今のミランは選手がのびのびプレーしていて、それぞれの能力を最大限に引き出せているように見える。

タレント力でいえばユーべ、インテルナポリ、ラツィオはミランよりも上だろう。だが、ミランは選手個々の足し算で上回ることができている。身の丈に合ったサッカーで組織として強いのが今のミランというわけだ。




攻撃

 

全体的に縦志向が強い

ミランの攻撃の特徴は縦志向の強さだとまとめることができる。ボールを奪ってから素早く持ち運ぶカウンターアタックが大きな武器となっているだけでなく、ビルドアップ時にも低い位置で丁寧につなぐよりもできるだけ早くボールを敵陣に運ぼうとする傾向が強い。

それでは、それぞれについて詳しく見てみよう。

 

最大の武器はカウンター

今のミランの最大の武器がカウンター攻撃だ。特に自陣でボールを奪ってから縦へ持ち運ぶロングカウンターはどんな相手にとっても脅威となる。

ボールを縦に持ち運ぶのは主に2列目の面々だ。レオンチャルハノールサーレマーケルス、控えのレビッチも含めて全員推進力があり、30~40メートルを持ち運ぶスプリント能力を持っている。だから個人でカウンターを成立させられるし、なおかつその持ち運びについていける走力があるので人数をかけた厚みのあるカウンターになっている。そのまま連係プレーで縦を破って中に折り返し、フォアで待つイブラヒモビッチが流し込むというシーンはすでに何度も見られている

インテルとのミラノダービーでの2点目はまさにミランが得意とするカウンターから生まれたもの。サーレマーケルスが自陣で相手をはがして持ち運び、チャルハノールを経由してボールを受けたレオンがダンブロージオをぶっちぎってクロス。これをイブラヒモビッチがダイレクトで合わせた。

この場面に象徴されるように、レオンは2列目の選手の中でも突出した圧倒的な加速力と突破力を持ち、オープンスペースで前を向けばほぼ確実に対面の相手を突破する。すでに縦への突破からのクロスで3アシストを記録している。

ラファエウ・レオンのプレースタイルまとめ

 

2列目の面々よりもさらに走力があるのが左サイドバックのテオ・エルナンデスで、最終ライン付近でボールを持ったところから50~60メートルを持ち運ぶことができる。ピッチを縦に切り裂いて独力でチャンスを作り出す戦術兵器だ。

テオ・エルナンデスのプレースタイルまとめ

このように、今のミランにはロングカウンターに適した選手がそろっている。彼らの特性を生かすためにカウンターをメインにしたのか、カウンターがメインだから彼らが生き生きとしているのかはわからないが、攻撃がかみ合っていることに変わりはない。




ビルドアップも難しいことはせず縦へ

ビルドアップでも縦へ素早く展開しようという場面が多いのが今のミランだ。

攻撃時には4バック+べナセルがビルドアップの軸。ケシエは下の図のように左のハーフスペースによけるか、前線へ飛び出して4-1-5のような形になる。

ケシエが斜めに落ちてテオを前線に送り込みその攻撃力を生かそうとするメカニズムはあるものの、相手のプレスをパスですべてはがせるほどビルドアップ自体のメカニズムは完成されていないし、後ろの選手たちはそれほどのテクニックレベルにもない。だから、相手が前から来たら潔くロングボールで逃げている。

ケシエがサイドバックの位置に落ちてテオ・エルナンデスを前線に送り込み、これを受けたレオンが中へ入り込む。もっとも、この形を作る前に前線へボールを送ってしまうことが多い。

もっとも、ロングボールの精度が高い選手は擁している。べナセルの左足は特に高精度で、今やセリエAナンバーワンのレジスタだと言っていいだろう。両サイドにパスを散らし、攻撃を組み立てる姿は利き足こそ違えどクラブのレジェンド、アンドレア・ピルロを彷彿とさせる。

そして、右のセンターバックに入っているシモン・ケアもまたロングボールの名手だ。昨冬にベテランの彼を獲得した理由は若いチームへの経験の注入だと思われる。だが、もともとロングボールの精度に長けたケアは戦術面でもすぐさまミランにフィットし、べナセルの負担軽減にも一役買っている。その右足から放たれるパスはレーザービームのようなサイドチェンジからふわっとしたパスまで多彩である。

シモン・ケアのプレースタイルまとめ

そして、そのロングボールの受け手は言うまでもなくズラタン・イブラヒモビッチである。39歳となっても今だなおボールを収める能力は一級品で、そこからボールを散らして攻撃の中継地点としても機能する。ターゲットとしてイブラヒモビッチがいることもまた、ミランの縦へ速いビルドアップを機能させている。

このイブラが動いて空いてスペースに選手がスムーズに入ってバランスを保てていることも大きいだろう。前線の選手は互いの位置を見ながら連動して動き、常にバランスが取れた陣形を保てている。常に秩序を乱さずに戦えていることが、ミランが安定した成績を残している大きな理由だ。

その典型例が、イブラヒモビッチと縦の関係を築くチャルハノールだ。イブラヒモビッチめがけてロングボールが入った時には必ずチャルハノールがサポートに入る。このことによってそこからの展開がスムーズに行っているし、イブラが競り勝てなくてもセカンドボールにチャルハノールが反応することで相手に自由にさせないことに成功している。

イブラの補佐役という明確な役割を与えられて覚醒し、ユベントスやマンUが獲得を狙っているという噂が立つほどになったチャルハノールはイブラヒモビッチ復帰の恩恵を最も受けた選手だといえるだろう。

チャルハノールのプレースタイルまとめ




攻撃に変化をつけるのが「王」イブラ

イブラヒモビッチが果たす役割はロングボールのターゲットだけにとどまらない。

縦へ縦へという攻撃は得てして単調になりがちだ。そんなミランのアタックに変化をつけるのがイブラヒモビッチの役割なのだ。フィジカルと得点能力に目が行きがちなイブラヒモビッチだが、足元のテクニックレベルは極めて高く、前を向けば正確なパスで2列目の選手を操る。攻撃の指揮者としての役割も担っているのだ。

それでいて得点ランクトップの10ゴールを挙げているのだからとても39歳の選手とは思えない。

イブラヒモビッチがミランの王だと言われているのは、決してそのパーソナリティーだけが理由ではない。むしろ、攻撃を組み立てて最後は自ら完結させるというピッチ内での振る舞いそのものが王なのだ

イブラヒモビッチのプレースタイルまとめ




守備

ここからは守備面についても見ていこう。今のミランは守備力もセリエAトップクラスの完成度を誇っている。

ここまでの9試合で喫した失点は8で、セリエAでは3番目に良い数字。クリーンシート数は4つでこちらはセリエAトップタイだ。

それでは、そんなミランの堅守の秘訣は何なのか。

 

個人個人の対人能力が高い

まず、前提として個人個人の守備能力の高さがある。センターバックは控えのガッビアを含めてフィジカル能力が高く、たいていの場面なら独力で問題を解決してしまえる。最後の最後までしっかり相手と競り合う粘り強さも印象的だ。

加えて、中盤に構えるケシエの存在は非常に大きい。ルカクをも弾き飛ばす規格外のフィジカルは23歳とは思えず、年齢詐称疑惑が持ち上がるほど。ケシエとコンタクトして勝てる選手などまずおらず、この圧巻のフィジカルで相手を封殺しボールを回収し続ける。彼が最終ラインの前に構えていることで、相手からすれば中央から突破していくことは困難を極める。

ケシエのプレースタイルまとめ

 

では、サイドからミランを攻略できるかといえばそうはいかない。特に目を見張るのが右サイドバックのカラブリアの成長だ。一時は伸び悩んでコンティに定位置を譲っていたものの、今シーズンに入って覚醒し定位置を奪い返した。粘り強い対人守備で対面の相手をことごとく封じている。

そして左のテオ・エルナンデスも日進月歩に守備力が成長。長らく守備面が課題だと言われていたが、もともとフィジカル能力は高かった。そこにイタリアでポジショニングの感覚などを叩きこまれ、いまでは守備時に穴になるような印象はない。

そして、最後尾にドンナルンマが構えているという事実も忘れてはならない。21歳の若さでイタリア代表の正守護神を務めている事実が示す通り、すでにイタリア国内でトップクラスのゴールキーパーだ。最終ラインを破ったとしても、ドンナルンマを破らなければ相手は得点を奪うことができないのは悪夢だろう。

この6枚の守備能力がハイレベルにあるというのが、ミランの堅守に欠かせない要素になっている。彼ら対人能力が高い選手たちが自陣にしっかりとブロックを組んでしまえば、そう簡単には崩されない。そうしていい状態でボールを奪えることが、得意のカウンターアタックの発動につながっているのだ。




前線からのプレッシングも高い完成度を誇る

個人としての守備力もハイレベルなミランだが、組織力もまた完成の域にある。

いったん守備陣形をセットすると、ミランは4-4-2の形をとってじわじわとプレッシャーをかけていく。このときのポイントはふたつだ。

ひとつは人に対する意識が強いこと。基本的に一人の選手が特定の相手をしっかりとマークする形をとる。センターバックが受け持つ相手FWに持ち場を離れてでもついていく場面は多い。これは、前述のように選手個々の対人能力が高いからだろう。

もうひとつは無理に奪いに行かないことだ。じわじわと相手にプレッシャーをかけ、ミスを誘発する。そうして自分たちがいい状態でボールを奪い、カウンターアタックにつなげているのだ。

奪いに行って入れ替わられることがないため常にいい状態での守備が可能になっているのだ。だから、今のミランは大崩れしない。イブラの離脱があるたびに失調を不安視する声が上がるが、チームとしてベースとなる守備が完成されている、特に守備が安定しているため大きく崩れることはないだろう。それに加えて選手層が厚く、誰が出てもチームとして大きくバランスを崩さない。今後も安定的に勝ち点を得てスクデット争いを続けていくのではないだろうか





 

トランジション

 

ポジティブトランジションではカウンター優先

何度も言っているように、今のミランの最大の武器はカウンターだ。したがって、ポジティブトランジションでの狙いはカウンターということになる。

高い位置で奪った場面ではもちろんだが、ボールを奪った位置が低い場合でも素早く持ち運んでカウンターにもっていく。ロングカウンターの精度が高いこともまた、前述した通りだ。

 

ネガティブトランジションでは即時奪回をめざしてプレッシング

ネガティブトランジションでの基本的な狙いは即時奪回だ。イブラヒモビッチも含めて、ボール周辺の選手は相手を囲い込んでボールを奪おうとする。

切り替えの早さはチーム全体に徹底されており、2列目の選手も精力的にプレスバックする。この奪われてすぐの局面の守備がしっかり整備されていることで、ここまでミランが危険なカウンターを食らう場面はほとんどみられていない

特に右サイドのサーレマーケルスはこの点で優れている。攻撃でも守備でも走れる汗かき役で、地味ではあるがチームに欠かせないピースになっている。

サーレマーケルスのプレースタイルまとめ

 

相手がボール保持を確立したら自陣低めの位置にしっかり守備ブロックを形成して相手を引き込む。そうして前向きにボールを奪って得意のカウンターアタックにつなげるのが狙いだ。

 




 

あとがき

ミランは言わずと知れたイタリアを代表する名門クラブだ。セリエA優勝回数18回はユベントスに次ぐ2位の数字。チャンピオンズリーグの優勝回数は7回を数え、これはイタリアのクラブで最多であるだけでなくレアル・マドリードに次ぐ欧州2位の数字。バルセロナやバイエルンといった他国のメガクラブをも上回る数字なのだ。

しかしながら、近年のミランは低迷。10-11シーズンのリーグ制覇を最後に中位をさまよい、ここ7シーズンはチャンピオンズリーグ出場権を獲得することすらできないなど暗黒期と呼ばれていた。

今シーズンは、そんな暗黒期を抜け出す絶好のチャンスだろう。いや、スクデットを奪還する絶好のチャンスだとさえ言える。絶対王者ユベントスが過渡期に入り、その他強豪クラブも力をつけてきたことで混戦模様を呈している。

そんな中、唯一安定した戦いぶりを見せているのがミランなのだ。9節終了時点で2位のインテルに勝ち点5差をつけ、頭一つ抜け出している。

このまま順調にいけば、チャンピオンズリーグ復帰という当初の目標を飛び越え、スクデットの奪還も視野に入るだろう。

10年前のスクデットの時も、そして今シーズンも中心にいるのはイブラヒモビッチだ。しかし、今のミランはイブラだけのチームではない。チームの大半は若手で占められている。その証拠に、今季のミランは5大リーグの全チームの中で最も平均年齢が低いチームなのだ。将来性を見据えた強化が進んでおり、かつての行き当たりばったりのチーム作りをしていたミランではない。新たな黄金期へ向けて、ミランは確実に歩みを進めている。

強いミランが戻ってきた。これだけで、セリエAの魅力は大きく増している。今シーズンの結末を興味深く見守ることにしよう。

 

 

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