ピルロ監督が見せたボヌッチの攻撃参加は奇策か?それともサッカーの未来か?

ピルロ監督が見せたボヌッチの攻撃参加は奇策か?それともサッカーの未来か?

2020年10月26日 0 投稿者: マツシタ
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2020年10月26日、セリエAの第5節で絶対王者ユベントスと昨シーズン躍進したヴェローナが対戦。試合は1-1のドローで決着した。

セリエAでは開幕戦以来価値がない状況となったユベントス。前節は昇格組のクロトーネと引き分けており、アンドレア・ピルロ新監督の船出は前途多難なものとなっている。

そんなピルロ監督がこの試合で驚きの新戦術を繰り出してきた。センターバックで起用されたボヌッチの攻撃参加である。

それも、ただの攻撃参加ではなかった。その動きには明らかに意図があり、狙ってやっていたものだったのだ。

今回はそんな奇策にも見える戦術について考察してみようと思う。

ヴェローナ戦前日のピルロ監督コメント - Juventus

 

ヴェローナ戦で見せた新機軸

センターバックに起用されたボヌッチは、守備時には定位置でしっかりヴェローナの攻撃を跳ね返していた。ここまでは、通常のセンターバックのプレーと何ら変わらない。問題はユベントスがボールを保持してからである。

ユベントスが後方からビルドアップを開始すると、ボヌッチは中盤に駆け上がってボールを受け、さばいていた。まるでボランチの選手のように。

そして、サイドにボールが展開し、クロスが上がってきそうな場面では、ボヌッチはゴール前にポジションしてボールを呼び込んでいた。まるでフォワードの選手のように。

この試合、ボヌッチは守備から組み立て、フィニッシュに至るまで攻撃のすべての場面に絡もうとしていたのだ。

インターセプトを決めたセンターバックがそのまま駆け上がるシーンが試合中に1度か2度見られることはある。しかし、この日のボヌッチは何度も同じ形を見せていた。明らかに監督からの指示があった、明確な狙いを持ったものだったのだ。

 

 

この用兵の狙いは何だったのか

この一見無謀にも見える戦術の狙いは何だったのか。

この試合のためだけに用意された奇策だったと仮定した場合、考えられることがふたつある。

前提として、ヴェローナの特殊戦術がある。ヴェローナはピッチの全域でマンツーマンで人を捕まえて激しいプレッシングを行う、とてもアグレッシブなディフェンスを見せるチームだ。まるでアタランタの戦術をそっくりそのままコピーしたようなものだった。

ユベントスはこの厳しい守備に苦戦し、前半にはチャンスらしいチャンスが作り出せなかった。これを打破するために、ボヌッチの攻撃参加を考案した可能性があるのだ。

ひとつめは、最後尾にいるボヌッチが攻撃参加することで、完全にフリーな選手を生み出そうという狙いである。

マンツーマンディフェンスを採用するヴェローナは、最終ラインで保険としてだれかを余らせるということをしてこない。そして、ボヌッチのマークを担当する最前線のフォワードは、どこまでもボヌッチを追い回すほど守備意識が高くない。つまり、ボヌッチが前線に攻め上がれば、完全にフリーな状態になるというわけだ。

相手のディフェンダーはそれぞれ自分のマークを持っている。そして、ボヌッチの担当はそこまで守備意識が高くないフォワード。ボヌッチが駆け上がることで、相手の守備陣は混乱する。

この試合を通してユベントスの面々はかなり広範囲に動き回っていて、流動性が非常に高かった。ボヌッチに関わらず、動きによって相手のマンマークを混乱に陥れようという狙いがあった可能性は高い。

もうひとつは、ビルドアップが詰まった時の逃げ道を用意しようという狙いである。

ユベントスがヴェローナの厳しい守備に苦戦して効果的にビルドアップできていなかったのは前述の通り。ピルロはこうなることをあらかじめ想定し、その逃げ道としてボヌッチを設定しようというわけだ。

ロナウドが新型コロナウイルスに感染したため、ユベントスの前線は高さ不足の状態だ。そこで、空中戦に強いボヌッチを前に上げてここへロングボールを入れるというプレーを逃げの選択肢として用意したのではないか。

ピルロがこの新機軸を打ち出した理由はこのどちらか、あるいは両方だったかはわからない。もしかしたら、両方とも政界ではない考察なのかもしれない。

1試合のための対策ではなく、これから継続的に使っていくつもりなのだとしたら…。これは、サッカーの未来の1ページ目なのかもしれない。

 

 

センターバックの攻撃参加はサッカーの未来なのか

近年のサッカー界では、センターバックにもテクニックが求められるようになってきている。チームがパスを回し始めるスタート地点は年々下がり始め、今やゴールキックではゴールエリアにGKとCBが横並びになって攻撃を組み立て始めるシーンも珍しくはなくなった。

ボヌッチはベテランだが、足元のテクニックレベルはとても高い。特にロングボールの精度は絶品だ。相手のライン裏にピンポイントで落とす「タッチダウンパス」は彼の代名詞だ。

彼のようなテクニックに優れたDFたちによるビルドアップ、それを高い位置で阻もうとする相手アタッカーたちのプレッシングという攻防は現代サッカーの見どころのひとつとなっている。

しかし、ディフェンダーのテクニックレベルが極限まで向上し、もはやボールを奪いに行っても無駄だとなればどうなるだろう。きっと、全チームが自陣に撤退して守備ブロックを形成し、待ち構える守備が当たり前になるはずだ

ハンドボールやバスケットボールを見てみればわかりやすい。手でボールを扱うこれらの競技では、ボールを奪いに前に出てもほとんどの場合でかわされてしまう。これらのスポーツにおいて高い位置からボールを奪いに行くプレーは、逆に自陣に大きなスペースを生んでしまうことになりかねないのだ。

サッカーは足でボールを扱うスポーツだ。いくらプロとはいえ手でボールを扱うスポーツと比べて不確実性が高く、ボールを奪いに行けばミスしてくれる可能性が高い。だからハイプレスを行っているのだ。

もし足でボールを扱う技術が飛躍的に向上して、サッカーでもハンドボールやバスケットボールと同じようにボールを奪いに前に出るほうがリスクが高いとなったら、相手は後ろで構えるようになるだろう。

そうなったとき、攻撃側の論点の中心は以下に攻撃を組み立てるかではなく、いかに相手の守備ブロックを崩すかに移るだろう。その時、ディフェンダーには何が求められるのだろう。最終ラインからロングボールを入れる役割だろうか。ボヌッチが得意とするように、相手の守備ブロックのほんのわずかな隙間にピンポイントでロングボールを供給するプレーだろうか。

私はそうは思わない。そんなことはGKがやればいいからだ。GKもまたテクニックレベルの向上が著しいポジションだ。将来的には、エデルソンのレベルがスタンダードになるのかもしれない。

そうなったとき、ディフェンダーはどこにいるのだろう。私は、ゴール前なのではないかと思う。そう、今日のボヌッチのように。現在でも引いた相手を崩すためにパワープレーが用いられる。パワープレーを成立させるためには、空中戦の強さが必要だ。センターバックのプレイヤーたちは、この要素を持っている。

将来、センターバックには空中戦の強さが最も求められるようになるのかもしれない。歴史の逆戻りだ。そして、前線に駆け上がったセンターバックめがけて、GKが高精度のクロスを送り込む。ディフェンダーとGKで攻撃するのだ。

そうなったら、フィールドプレーヤーは全員がディフェンダー化し、同時に全員がセンターフォワード化するのかもしれない。

 

 

あとがき

私がこの記事で語った妄想は、果たしてサッカーの未来なのだろうか。もしそうなら、現在よりも退屈なスポーツになってしまうような気もする。

ユベントスがこの戦術を継続的に見せていくかどうかはわからない。残念なことに、ボヌッチはこのヴェローナ戦で負傷交代してしまったからだ。ピルロの伊都がはっきりと見えてくるのは、もう少し先になりそうだ。

最近のサッカーでは得点がよく動くようになっているのも気になるところだ。マンC2-5レスター、アストンビラ7-2リバプール、レバークーゼン6-2ニース、ローマ5-2べネベント、サッスオーロ4-3ボローニャ…。今シーズンに入って、この流れは加速している気がする。それも、これは局地的な流れではない。ヨーロッパ全体での流れである。

失点数を抑えるために、リトリートを選択するチームが増えてくる可能性は、思っているよりも低くはないのではないだろうか。

そうなったら、私が描いた未来へと近づくかもしれない…。

何はともあれ、今はおそらくサッカー市場で最も面白い、ビルドアップvsプレッシングという駆け引き、そして毎試合繰り広げられるゴールショーを楽しむことにしよう。