【CLでも躍進】アタランタの特殊戦術を徹底解剖!

【CLでも躍進】アタランタの特殊戦術を徹底解剖!

2020年8月21日 8 投稿者: マツシタ
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※この記事は昨シーズン(19-20シーズン)のアタランタの戦術を解説したものです。今シーズン(20-21シーズン)のアタランタの戦術は下のリンクからどうぞ!

【ゴメス退団?むしろ好調!】アタランタの戦術を徹底解剖!

 

2020年8月13日、チャンピオンズリーグ準々決勝の第1試合が行われた。組み合わせは優勝候補のパリ・サンジェルマンとイタリアの小規模クラブ、アタランタの対戦。誰もが順当にパリ・サンジェルマンが勝ち抜けると信じて疑わなかったはずだ。何せ対戦相手はイタリアの小さなクラブ。それまで名前も聞いたことがなかった人も多かったはずだ。

そんな対戦、この試合はいいやとリアルタイムで見なかった方も多いのではないだろうか。

だが、試合を見た人は驚いたはずだ。聞いたこともないような選手たちが、スター軍団のパリと渡り合っているではないか。しかも自陣に立てこもるという力で劣るチームの常套手段を用いるのではなく、パリと堂々と攻めあったのだ。その戦いぶりは、昨シーズンに同じく攻撃的なスタイルで躍進を果たしたアヤックスを思い起こさせたものだ。

結果的にはパリがラスト5分で劇的逆転勝利。ネット上ではパリ側に視点を置いた論調が目立つが、逆に言えば優勝候補のパリをアタランタがぎりぎりまで追い詰めたといえるだろう。

そんなアタランタはセリエAでも3位という好成績を収め、来シーズンもチャンピオンズリーグを戦うことが決まっている。そのセリエAでは1シーズンに上げた最多得点記録を更新し、セリエA最強の攻撃力を持つチームとなった。カテナチオの文化が浸透する守備の国で1試合5点以上が6回という異質なスタイルで躍進するアタランタ。その攻撃力のカギは、これまた特殊な守備にあった。

今回はそんなアタランタの特殊戦術についてまとめていこうと思う。

19-20シーズンのアタランタの主要フォーメーションと各選手の役割。




アタランタの守備戦術 マンツーマン

 

オールコートマンツーマンという異端児

その攻撃力がフォーカスされがちなアタランタ。しかし、戦術的な特殊性はその守備にある

サッカーの守備には、大きく分けて2種類の守備方法がある。ゾーンディフェンスとマンツーマンディフェンスだ。

簡単に説明すると、ゾーンディフェンスはスペースを守る守備だ。ボールや味方の位置を基準に自分たちの守備の陣形を保つことを優先する。そして、自分たちの守備陣の中にボールが入ってきたらボールを奪うのだ。

ゾーンディフェンスは自分たちの陣形の維持によって相手にスペースを与えないことを優先し、ボールの位置と味方との位置関係によって各選手のポジションが決まる。

対して、マンツーマンディフェンスは基準が相手の選手になる。自分たちの陣形を保つよりも、相手の選手を捕まえることで相手の選択肢を削ろうとする守備方法だ。それぞれの選手が受け持ちの相手を決め、マッチアップするため1対1が10個できるような形となる。

マンツーマンディフェンスではひとりの選手がひとりの相手をつかまえることでマッチアップする。味方の位置ではなく、相手の位置によってポジショニングが決まる。

現代のサッカーでの主流はゾーンディフェンスだ。ゾーンディフェンスを基本にしつつマンマークディフェンスを局面局面で織り交ぜていくというのが通例となっている。

そんな中で、純粋なマンマークディフェンスに限りなく近い守備戦術を採用しているのがアタランタなのだ。これはゾーンディフェンス流行のサッカー界において極めて異端な戦術だ。メールが主流なこのご時世にすべてのやり取りを手紙で行っているようなだろう。時代遅れというわけではなく、それだけ特殊であるという意味でとらえてほしい。




特殊戦術ゆえ選手を選ぶ

アタランタが採用するマンツーマンディフェンスのデメリットについてみてみよう。

前述の通り、マンツーマンディフェンスでは相手選手一人一人に対してアタランタも一人一人が対応することになる。つまり、すべての局面が数的同数ということになる。

ということは、どこかで1対1に負けてしまうと、途端にすべてがずれてくることになる。この戦術は一対一に負けないことが前提になっているということだ。

青がアタランタ。8番がマッチアップで負け、3番がカバーに入ることで彼がマークを受け持っていた相手の11番がフリーになってしまっている。ひとつずれると、途端に崩壊するリスクがあるのがマンツーマンディフェンスのデメリットだ。

このように、アタランタのオールコートマンツーマンはひとりが局面で負けてしまうと途端に不利に陥ってしまうリスキーな戦術でもあるのだ。

下のフォーメーションを見てほしい。

これは今シーズンの主力選手の身長を示したものだ。ゴメスを除いた9人全員の身長が180センチを超えており、その平均身長は186センチを超える。1対1の強さが不可欠な戦術であるため、でかくて強い選手を選んで獲得してきているのだろう。特殊戦術ゆえに選手の選び方にも独自の基準があることがうかがえる。

なお、アタランタは相手が高い位置でボールを持っている場面ではマンツーマンでボールを積極的に奪いに行く守備を見せるが、相手に押し込まれたら5バックによるゾーンディフェンスに移行することも注記しておかなければならない。ただし、このゾーンディフェンス、完成度は高くない。あくまでも高い位置でマンツーマン守備によりボールを奪うことを目的としており、こうしたゾーンディフェンスの局面はできるだけ減らしたいというのがアタランタの狙いだろう。




アタランタの圧倒的な攻撃力

 

ゴールに向かうランニング

ここからは、セリエA歴代最強となったアタランタの攻撃力の秘密に迫っていきたいと思う。

先ほど、アタランタはでかい選手をそろえているということを書いた。ただし、彼らはただでかいだけではない。でかい上に走れるのだ。

アタランタのゴールシーンを見ると、常にゴール前に4、5人が入ってきている。これだけ厚みをある攻撃はなかなかできるものではない。しかも、アタランタはこれを速い攻撃の中で成立させているのだから大したものだ。

アタランタの攻撃は、縦に早くがコンセプトだマンツーマンディフェンスも、そのためにあるだろう

各選手が相手のすぐ後ろに付けてスタンバイ。不用意なパスが出れば、一気にインターセプトする。インターセプトをしたとき、選手のベクトルは前を向いている勢いそのまま、縦に速い攻撃を仕掛ける

前向きにインターセプトした選手は攻撃方向に勢いを持っている。この勢いを利用することで加速した状態から攻撃をスタートできるのだ。

その際、各選手はゴールに向けて走りこむ。なだれ込むといったほうがいいだろう。前線の選手だけでなく、両ウイングバックもゴールめがけて走り、攻撃に厚みを持たせる。左ウイングバックのゴセンスは驚異のシーズン10ゴールだ。さらに、右CBのラファエウ・トロイも頻繁にゴール前に顔を出す。これだけの数の選手たちが、しかもでかい選手たちが一斉にゴールを目指してくるのだ。そりゃ破壊力抜群なわけである。

アタランタの選手たちはゴールめがけてランニングする。このシンプルな原則が厚みある攻撃の源泉だ。

このゴールに向かうランニングというシンプルな原則がアタランタの分厚い攻めを支えているのだ。

ビルドアップの局面でも、その意図は変わらない。アタランタのビルドアップの肝は縦に長いひし形の形成にある。このひし形の底にあたるサイドCBから頂点のフォワードめがけて素早くボールを運ぶのだ。その間に、逆サイドから人が湧き出してきてゴール前に厚みを出す。速攻の時と同じように、分厚い攻撃の体制が整っているというわけだ。

サイドにひし形を形成しすばやく縦に運ぶ。その間に逆サイドの選手たちはゴール前へ。




アタランタのゴールパターンはおおきく2つ

そんなアタランタのゴールパターンはおおきくふたつに分けられる。

ひとつはサイドからのクロスボールだ。前述の通り、アタランタはゴール前に4、5人を送り込んで厚みを持たせる。ここにクロスボールを送り込むのが基本的なゴールパターンだ。シンプルではあるがゴール前にかける人数がとにかく多いため相手が対応することは非常に困難。特に一番外から入ってくるウイングバックはほとんどの場面でフリーだ。その結果ゴセンスがゴールを量産しているのは前述の通りだ。

画像の赤いスペースがアタランタの狙い。ここに低くて速いボールを送り込む。

クロスボールは低めのロークロスが多い印象。基本的にアタランタの攻撃は速攻なので相手最終ラインとゴールキーパーの間にはスペースがある。そこに低くて速いボールを送り込むのが常套手段だ。

そのクロスボールを送り込むためにもアタランタが狙っているのがペナルティエリア内のハーフスペース。ここを取れてしまえばいいクロスが高確率で入ってくる。

アタランタが攻撃時に狙いにしているのがこのペナルティエリア内のハーフスペースだ。

前述のゴセンスはアシストも8と高い数値記録している。右のハテブールの6アシストを見ても、アタランタにとってサイドアタックは生命線だということがわかるだろう。

もう一つの得点パターンがミドルシュートだ。中盤から前の選手たちは、ミドルシュートが総じてうまい。相手がアタランタの攻撃を警戒して引いてブロックを形成すれば、そうして空いた中盤のスペースから積極的にミドルシュートを狙う意識が共有されている。

みんなミドルレンジからのシュートがうまいのだが、中でもイリチッチは個人で名前を出さなければならないだろう。190センチと大柄ながら技術レベルが高く、体格を生かしてボールを隠しながら打ちやすい場所にボールを置き、長い足をムチのようにしならせて強烈なシュートを蹴りこむ。それが両足から飛んでくるのだから脅威以外の何物でもない。今シーズンはケガもありフル稼働していないもののリーグとCL合わせて20ゴール。まさに決定的な仕事を連発した。

イリチッチはアタランタの攻撃をけん引。バレンシア戦では1試合4ゴールを記録した。




特殊な役割を任される選手たち

 

ひとりだけ下がるアレハンドロ・ゴメス

ここからはアタランタにおいてキーマンとなっている選手たちのプレーを紹介しよう。

まずなんといってもチームの精神的支柱でもあるアレハンドロ・ゴメスを紹介しないわけにはいかないだろう。大柄な選手をそろえるアタランタにおいてひとり167センチとサッカー選手全体の中でもかなり小柄なゴメスはある意味でとても目立つ。「例外」なゴメスはプレースタイルも例外的だ。

組み立てから崩しまでを担うアレハンドロ・ゴメス

アタランタの攻撃は縦志向が強く、みんながゴール目指して走りこむことは前述の通りだ。そんな中、一人だけベクトルが自陣に向いている選手がこのゴメスだ

基本は速い攻撃を志向するアタランタとは言えど、ビルドアップで組み立てていかなければならない場面は出てくる。そこでゴメスの出番だ。ひとり小柄なゴメスはその機動力を生かして中盤に表れてビルドアップをサポート。DFラインと中盤の中継地点として攻撃の組み立て役を担う。

チームのベクトルが前を向いている中、ゴメスはひとり下がってゲームを組み立てる。その結果、図のように両ボランチと位置関係が入れ替わることも多い。単調になりがちな攻撃に変化をもたらす重要な存在だ。

両ボランチがゴール前に進出し、空いたスペースにゴメスが下りてくるためビルドアップ時のゴメスの振る舞いはボランチのようだ。

ビルドアップを助けたゴメスは、そのあとはバイタルエリアに侵入する。前線の選手たちが相手を押し込むためこのスペースは空きやすく、ここから崩しの最終局面にも絡む。シーズン18アシストという数字が組み立てだけにとどまらない貢献度の高さを物語っている。

相手を押し込んだあとはこのバイタルエリアがゴメスのプレーエリアとなる。




攻守に前に出る3CBの中央

そしてもう一人、3CBの中央のポジションも特殊な役割を任される選手だ。

シーズンを通してパロミーノが担うことが多かったものの、シーズン終盤では冬に加入したカルダーラが起用されることが多かった。

冬に加入したカルダーラは2シーズン前に移籍するまでアタランタに所属していた。ガスペリーニサッカーは熟知しており、即座にフィットした。

どちらが起用されてもその役割は同じ。攻守に前に出ることが求められた

守備時の前進はマッチアップ相手によるものだ。マンマークの原則に基づき、この中央のセンターバックもマッチアップ相手を受け持つことになる。この選手が、自分をマークするセンターバックを嫌って中盤に降りてボールを受けようとする場面は多く見られた。しかし、それはあまり意味をなさないだろう。なぜなら、このセンターバックはどこまでもついてくるからだ。

ガスペリーニ監督は、センターバックに自分のポジションを開けるリスクを冒してでもマークの相手を離さないことを要求している。だから、どこまで下りていこうがこのセンターバックは前へ前へとついていくのである。このようなプレーを見せるセンターバックはなかなか見られない。

3CBの中央に入る選手は、赤いエリアを空けるリスクを犯してでもマッチアップ相手についていく。

攻撃時の前進は見方がビルドアップで詰まりそうになった場面で見られる。アタランタがビルドアップ時に縦への展開を狙ってひし形を形成することは前述の通りだが、このひし形の中でパスを出せる選手がいないくてサイドCBが困ってしまったときに、3CBはこれを助けるために前に出てパスコースを確保する

ビルドアップが詰まった際に前に出てパスコースを作り出すのも3CBに任された役割だ。

斜め後ろではなく、前に出て真横にパスコースを作り出すというアプローチは、いかにもアタランタらしい、ガスペリーニらしいアプローチである。




あとがき

最後に、このフォーメーション図を見てほしい。

これは、過去アタランタに在籍し、ここ最近移籍していった選手たちだ。ミランやインテル、ローマなど国内のビッグクラブで活躍する選手たちばかりであることがわかるだろう。そう、アタランタは育成の名門でもあるのだ。

毎シーズンのように主力を強豪に引き抜かれながら、自前で選手を育てつつやり繰りし、過去4シーズンは安定して欧州カップ戦の出場権を獲得してきたその戦いぶりは絶賛に値する。

今期も3位に入ってチャンピオンズリーグ出場権を獲得したアタランタ。パリ・サンジェルマンには惜しくも敗れたものの、プロビンチャ(イタリアの中小クラブ)の冒険は終わらない。いや、もはや強豪といって差し支えないのではないか。

前線は選手層も厚く、イリチッチが離脱した際もパシャリッチやマリノフスキが遜色ない活躍で穴を感じさせなかった。ムリエルはほとんどが途中出場から18ゴールを挙げている。選手層の厚さは強豪クラブの必須条件だ。アタランタはこれを満たしつつある。

イタリアのクラブとしては数少ない健全経営を続ける優等生クラブとしても知られるアタランタ。ピッチの内外で結果をだしつつ、競合への階段を着実に上っている。来シーズンも要注目だ。

 

 

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