~名門・開成の教育哲学~ 『なぜ、中高一貫校で子どもは伸びるのか』を読んでみた

~名門・開成の教育哲学~ 『なぜ、中高一貫校で子どもは伸びるのか』を読んでみた

2020年6月1日 0 投稿者: マツシタ
Pocket

東京都に、開成中学校・高等学校という中高一貫校がある。長年、日本の教育の頂点である東京大学に日本で最も多くの大学生を送り込む日本屈指の名門校だ。

そんな開成は、中高一貫の男子校という特異な教育形態をとっている。その意図はどんなところにあるのだろうか。

この点を含め、現開成中学校・高等学校の校長を務める柳沢幸雄氏の教育哲学をまとめたのが、『なぜ、中高一貫校で子どもは伸びるのか』(祥伝社新書)である

 

 

「中高一貫校」の理由

子育ての目的は、親と子が互いに独立すること

皆さんは子育ての目的は何かと聞かれた時にどう答えるだろうか。

この問いにはいろいろな答えが考えられる。もちろん定まった正解はないだろう。それでも、日本一の名門校の校長の意見となれば、非常に説得力があるだろう。

著者は、子どもが自分一人で生きていける力を育むことが子育て・教育の目的だと答えている。そのために、開成中学校の入学式で、子どもの両親にこれからはできるだけ子供から手を放すように伝えるそうだ。

せっかく手塩にかけて開成という超名門校に入学させて、これからが自分の出番だと意気込んでいる親にとっては受け入れがたいことかもしれない。しかし、子育て・教育は、子供の自立を促すものであると同時に、親の子供からの独立を目指すものでもあるのだ。

お互いに一定の距離を保って大人同士としての関係を築くことが、最終的な理想像なのだ。

 

中高時代では友人からの影響が一番大きい

小学校までは親や教師の姿を見て育ってきた子供たちは、思春期に移行していくと誰から最も影響を受けることになるのだろうか。それは友人たちである。

大人と子供の中間期にあたる思春期の子供たちは、大人とは自立し、横の友人関係、そして先輩・後輩とのかかわりの中で小さな社会を形成していく。これが「ミニ社会」である。

ミニ社会において重要なのは、同級生同士の横のつながりではなく先輩・後輩との縦のつながりだ。一人っ子が年々増加している現代の日本では、兄・姉を見て学んだり弟・妹をいたわったりする経験がない子供が多い。それゆえ、学校で年齢の離れた先輩・後輩と接することの重要性は高まっているのだ。

 

ミニ社会での経験こそが中高一貫校の最大の効用

そして、中学校・高校が別々になっている学校では、最も離れても2歳差の先輩・後輩としか接さない。それが中高一貫校なら、最大で5歳も離れた先輩・後輩と接することになるのだ。単純に比例計算すると、13歳の時の5歳差は、40歳の時の15歳差に相当する。つまり、社会の中枢で働く人々の年齢構成が、中高一貫校のミニ社会で実現しているのだ。

このように、中高一貫校のミニ社会はよりリアリティがある。このミニ社会で過ごし、先輩・後輩から刺激を受けることで様々な価値観が芽生え、将来的に自分が目指すべき社会的なポジションや方向性が見えてくる。これこそが、中高一貫校の最大の効用であると著者は述べている。

 

 

開成は課外活動も重視する

学校教育の両輪

開成といえば、まず真っ先に思い浮かぶのは偏差値の高さだろう。しかし、開成はひたすら勉強をさせて高い教育レベルを維持しているわけではない。校長である著者は、課外活動についても重視しており、授業とともに学校教育を支える両輪としてとらえているのだ。課外活動が中高一貫校の最大の効用であるミニ社会の形成に必要であるというのが、その理由だ。

現代はインターネットの発達で、検索すればほしい知識はいつでもどこでも手に入れられる状態になった。無料で視聴可能な映像授業もあふれている。それでもなお学校に子ども集める意義は、社会生活の演習を行う課外活動にあるのだ。

 

開成の課外活動は一から百まで生徒が作り上げる

ミニ社会をよりリアリティのある状態で体験してもらう工夫として、教員はできるだけ課外活動にかかわらないようにしている。学生の中だけで課外活動を運営していくような形にしているのだ。

例えば修学旅行や学年旅行では、行きたい場所を共有する生徒たちがグループとなってプレゼンをしあい、旅行先が決定される。それが決まれば、旅行の行程、班割、部屋割りから旅行会社との打ち合わせに至るまで、すべて学生が自分たちでやる。本当にゼロから作り上げていくのだ

こうした活動を通じて自分がリーダータイプなのか、参謀タイプなのか、それとも専門職タイプなのかを考えさせ、将来的に自分が目指す方向性を自覚させるのである

 

「男子校」の理由

この課外活動については、開成が男子校という形態をとる理由にもつながる。

というのも、男女では成長のスピードに差がある。皆さんご存知の通り、女子の方が成長スピードが速いのだ。それゆえ、思春期に男女が混在していると、成熟度の高い女子がリーダーシップをとり、男子は女子に任せがちになりやすいのだ。

ゆえに、男子のリーダーシップを育成するために、男子校が有用だというのが著者の考え方だ。

ちなみに、大学以上になると男女の関係が逆転し、今度は女子が男子に任せがちになる。なので、女子のリーダーシップを育てたいなら、女子大が有用だとも説いている。

男女別学には、このような意外な効用もあるのだ。

 

いかがだっただろうか。

開成といえばめちゃくちゃ頭がいい学校というのが世間一般のイメージだろうが、勉強の生成器を上げるだけを考えているわけではなく、子供の人間的な成長を考えているのだ。真の名門校と呼ぶにふさわしいのではないだろうか。

本書では、他にも親に対する助言や大学の進路選択など、日本トップ校の校長の示唆に富んだ教育哲学がまとめられています。気になる方は、ぜひ実際に手に取って読んでみてほしい。

それでは今日はここらへんで失礼します。

関連記事

~女子校は天国、共学は地獄!?~『女子校力』を読んでみた

~フィンランドの教育方針は日本とは正反対!?~ 『フィンランドの教育はなぜ世界一なのか』を読んでみた