『日本海 その深層で起こっていること』を読んでみた

『日本海 その深層で起こっていること』を読んでみた

2020年5月25日 0 投稿者: マツシタ
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日本は四方を海に囲まれた島国である。その北の海、太平洋と並んで広範囲に日本と接しているのが日本海である。

実は、日本海は世界的に見ても特殊な構造を持っており、世界的にも注目されているという。その日本海の特殊性や日本海を観察することで見えてくることについてまとめた日本海の入門書というべき本が蒲生俊敬氏の『日本海 その深層で起こっていること』である。

今回は日本海を観察することで見えてくる未来について焦点を絞り、つらつらと書いていこうと思う。

 

日本海は「ミニ海洋」

日本海の閉鎖性

日本海は特殊な海である。日本海を特徴づける要素は大きく2つあり、その一つが閉鎖性だ。

日本海の外部との接続部分にあたる間宮海峡、宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡はそれぞれ10m、50m、130m、130mとなっており、日本海の平均水深約1700mと比べると極めて浅い。つまり、地図で見ると日本海は外部の海洋と接続されているように見えるが、実際にはかなりの閉鎖性を持つといえる。日本海の断面図を見ると、巨大なプール、もしくは鍋のような形をしているといっていいだろう。

タタール海峡が間宮海峡にあたる。

しかし、世界に目を向ければ、似たような構造の海洋はほかにもいくつか存在している。これらの海洋からさらに区別化される日本海にほぼ唯一といっていい特徴がある。

 

季節風が豊かな日本海を作る

それが、日本海にはその内部だけで完結する独自の熱塩循環系が存在していることだ。

海水は、温度が低くなるほど密度が大きくなるという性質を持つ。密度が大きいということは重いということであり、冷えた海水は沈み込む。これと入れ替わる形で深層にあった海水が表層へと上昇してくる。これが熱塩循環である。

この熱塩循環がなければ、海水は暖かく軽い海水が表層に、冷たく重い海水が深層に存在した状態で安定する。ちょうど湯船に張ったお湯と同じだ。熱すぎて入れないときは湯船をかき混ぜ、浅いところにある熱いお湯と深いところにある比較的ぬるいお湯をかき混ぜると思う。この動作が熱塩循環にあたるというわけだ。

冬になると日本海上空にはシベリアからの冷たい季節風が吹く。これによって冷却された表層水が沈み込むことで熱塩循環が引き起こされるのだ。

熱塩循環があることにより、深層から海水が湧き上がってくる。実は、深層の海水は生物の死骸などから発生する栄養分を豊富に含んでいる豊かな海水だ。深層水のミネラルウォーターがブランド化されていることからもわかるだろう。この豊かな海水の上昇があることによって日本海は多くの魚介類をはぐくむ。日本の豊かな海産資源は、この日本海独自の熱塩循環がもたらしたものだといっても過言ではないのだ。

 

ミニ海洋たるゆえん

実は、この熱塩循環は全世界的に見られる構造もあるのだ。きわめて寒冷な北極や南極で海水が沈み込み、1000年から2000年をかけて深層を移動した低層水は、太平洋の中央付近で湧き上がってくるという巨大な循環を全地球規模で形成しているのだ。

日本海には、この熱塩循環という縦方向の海水の流れだけでなく、対馬海流という横方向の海水の流れも存在している。この点においても、日本海がほかの閉鎖的な海と比べて際立っているといえる。

日本海は外部から極めて隔離された閉鎖的な海で、その中には全地球規模と同じような海水の循環の流れがある。つまり、日本は全世界の海洋を縮小したような海だということだ。つまり、世界の海のミニチュア版、「ミニ海洋」であるということができるだろう。

 

日本海を見れば未来がわかる

世界の研究者が注目

日本がミニ海洋であるという事実は、遠くヨーロッパの研究者からも注目を受ける原因となっている。日本海と世界の海洋を海水の循環というスケールで見ると、日本は世界の海洋の10分の1のスケールだとみることができる。

これはつまるところ、日本海は世界の海洋よりも10倍環境の変化に敏感であるといえる。近年、地球環境の変化が著しいが、日本海の地球環境への反応が、やがて全世界的に拡大する可能性があるのだ。

この点において、日本海は興味深くかつ重要な研究対象として近年注目を受けているのだ。

 

日本海に早くも現れる異変の兆候

それでは、その日本海に現れている変化の兆候について、少し見てみよう。

近年、日本海では地球温暖化の進行を証明するかのように、深層の水温が上昇している。しかし、問題はここではない。水温の上昇と連動するようにして、海洋の酸性化が進行しているのである。

海水の酸性化は、主に二酸化炭素と水が反応することで発生する。水と反応した二酸化炭素は、炭酸という弱い算を生成することで、海水全体を酸性化していく。海洋の酸性化の進行は、二酸化炭素の増加を間接的に示しており、人類の活動が地球環境に影響を与えている証拠といえるだろう。

そしてこの海洋の酸性化、水生生物に甚大な被害を与えることが懸念されている。海には、サンゴや貝類など、炭酸カルシウムからできた殻をもつ生物が多く生息している。海洋の酸性化が進行すると、これらの殻が溶かされてしまうというのである。当然殻をもつ生物は絶滅の危機にさらされるだろう

さらに恐ろしいことに、日本海では海洋の酸性化が表層だけにとどまらず、深層でも進行しているのである。深層での海洋の酸性化は日本海以外では報告されていない極めて特異な現象であり、深層の生態系への影響も懸念されている。

そして前述のように、日本海で起こっていることは今後全世界的に拡大することが予測される。日本海で起こっていることを知ることは、やがて全世界的で起こる現象を知り、対策を立てることに大いに役立つと期待されている。深層水の酸性化というこれまでに経験したことがない事態が何をもたらすのか、究明が急がれているところである。

 

いかがだっただろうか。

地球環境の変化はある地点までは緩やかに進行するが、とある地点(閾値)を超えたとたんに劇的に進行するとされている。変化は緩やかだと油断していると、取り返しのつかないことになる可能性があるのだ。

日本海が発している「警告」に耳を傾け、これから起こることへの対策を立てていくことは、ひいては人類の未来を守ることへとつながっていくだろう。

それでは今日はここらへんで失礼します。

 

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