チーロ・インモービレのプレースタイルまとめ ~ラツィオのエースは絶滅危惧種~

チーロ・インモービレのプレースタイルまとめ ~ラツィオのエースは絶滅危惧種~

2020年5月4日 5 投稿者: マツシタ
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新型コロナウイルスの感染拡大の影響でセリエAが中断されてから2か月以上が経過した。

リーグの中断前、望外の躍進で台風の目となり、リーグを盛り上げたのが、例年EL出場権争いが続いていた首都ローマのクラブ、SSラツィオだった。リーグ戦では5ヵ月負けなしの破竹の勢いで首位に立つ絶対王者ユベントスを勝ち点1差で猛追する一方、ひとつしたにいるインテルとは勝ち点8差をつけていた。いよいよスクデットをかけて王者ユベントスとの一騎打ちという様相を呈していただけに、今回の中断はラツィオからしてみれば悔やまれてならないだろう。

そのラツィオを牽引していたのが、中断時点で得点ランクトップを爆走していた大エース、チーロ・インモービレだ。

今回はラツィオをイタリア屈指のクラブまで押し上げたこのストライカーのプレースタイルについてみていこうと思う。

 

 

インモービレの来歴

かつてはうまいのか下手なのかわからないFWだった

インモービレはユベントスの下部組織出身だ。しかし、このメガクラブの厚い選手層に阻まれて出場機会を得られず、2部セリエBのクラブを転々とすることになる。

転機が訪れたのはユベントスに放出されて3シーズン目の11-12シーズン。ペスカーラでシーズン28得点を挙げ、クラブをリーグ優勝に導く大活躍を見せたのだ。それまでの2シーズンで各1得点しかしていなかった当時21歳の若者が起こした突然の大爆発だった。

ペスカーラ時代のインモービレ

当然注目が集まり、セリエAのジェノアへステップアップを果たす。しかし、鳴り物入りでの加入だったにもかかわらず、ジェノアで上げたゴールは5。鳴かず飛ばずの結果で、わずか1シーズンでトリノへ新天地を求めることになる。

しかし、この移籍が転機となる。新天地トリノで躍動したインモービレはシーズン22ゴールを挙げ、セリエAの得点王に輝いたのだ。ユベントスなど強豪の猛者たちを押さえて中位のトリノから得点王を獲得したのだ。当然メガクラブからの誘いがかかった。

トリノ時代にはこのチェルチとの2トップでシーズン35ゴールを叩き出し、自身は得点王に輝いた

再び1シーズンでトリノを飛び出し、ドイツの強豪ドルトムントに新天地を求めた。前のシーズンまで絶対的なエースだったレバンドフスキ(現バイエルン)と入れ替わりで加入したインモービレは、その穴埋めという大きな仕事を期待された。しかし、シーズン通してわずか5ゴールしかあげられず、期待を大きく裏切ってしまう。結果、またしても1シーズンで放出されてしまう。

再起を期して加入したスペインのセビージャでは、満足に出場機会を得ることすらままならずに半年で古巣トリノにレンタルに出される始末。

失意のまま帰国したインモービレが次に選んだチームが、ラツィオだった。

 

流浪のストライカーがたどり着いた理想郷

こうしてみてみると、インモービレのキャリアは非常に浮き沈みが激しかったことがわかるだろう。本当にうまいのか、それとも偶然活躍したシーズンがあったのかわからないようなFWだった。そう、ラツィオにやってくるまでは

ラツィオに到来したインモービレは、それまでの好不調の波が嘘だったかのようにゴールを量産する。

加入初年度で23ゴールを挙げてエースとしての座を確立すると、続くシーズンでは29ゴールを挙げてセリエA得点王に返り咲いた。昨シーズンは15ゴールと(インモービレとしては)ペースを落としたが、今季は26試合27得点と試合数を上回る驚異的なペースでゴールを量産。2位のロナウドが21ゴールであり、すでに独走態勢に入っていた。リーグが継続していれば得点王を獲得したことは間違いなかったはずだ。

これまで波が激しいキャリアを送ってきたが、ラツィオに加入したとたんに活躍し始めたインモービレ。その背景には、ラツィオとのウィンウィンナ関係があった。

 

 

インモービレのプレースタイル

不器用で助けを必要とする古典的ストライカー

インモービレがやってきた16-17シーズンは、現在もラツィオの指揮を執るシモーネ・インザーギ監督がシーズンを通して指揮を執り始めたシーズンでもあった。つまり、彼の戦術がインモービレの覚醒を促したのだ。

インモービレは、器用な選手ではない。密集地帯をドリブルですり抜けていくような細かいタッチのドリブルは持っていない。相手をしっかり押さえてボールをキープし、味方との細かい連携から引いた相手を崩していくようなプレーは得意ではない。だからこそ、戦術的な助けを必要とするのだ。

これまでインモービレが浮き沈みが激しいキャリアを送ってきたのも、関係があるのではないか。つまり、自分に合う戦術を採用しているチームでは得点を量産するが、不得意なプレーもこなすことを要求されると、輝きを失ってしまうのだ。

では、不器用なインモービレは何が得意なのか。彼の最大にして恐らく唯一のストロングポイントが、得点能力だ。得点以外の部分での貢献を求めると、凡庸な選手に成り下がる。しかし、得点を取ることに専念させると、めっぽう強いのである

裏に抜け出して、GKとの1対1を制して決める。DFとの駆け引きを制してフリーでクロスに合わせて決める。PKを確実に決める。彼のゴールには華麗なものは少ない。しかし、決めるべき場面で確実に得点に結びつける。これを淡々と繰り返し、得点を重ねていくのだ。

そのほかの仕事は最低限で済ます代わりに、得点を決めることに専念することで輝く。彼のプレーを一言でまとめると「古典的なストライカー」だ。FWにも守備をはじめ様々なタスクを課される現代サッカーにおいては絶滅危惧種といえる選手だ。

 

インモービレとインザーギのウィンウィンな関係

これまで見てきたように、インモービレは狭いスペースでのプレーを得意としない。彼の十八番はオフサイドラインを破って裏のスペースに抜け出し、GKとの1対1を制して流し込むプレーだ。だからこそ、現在のラツィオが採用するカウンターサッカーは彼にとって好都合なのだ。裏へ抜け出すインモービレへ精密なスルーパスを通すパスマスターのルイス・アルベルトの存在も大きいだろう。

現在12アシストでこちらもリーグのトップを走るルイス・アルベルト

現在のラツィオは、ボールを失ったらハイプレスではなく、リトリート(自陣撤退)する。この戦い方はインモービレが守備で消耗して得意のロングスプリントの精度が落ちるのを防ぐとともに、彼がアタックするためのスペースを相手DFライン裏に作り出す。

これまでインモービレが輝いたのはトリノやペスカーラといった中堅どころで、リーグ内では強豪としてボールを握って戦う試合が多いドルトムントやセビージャで輝けなかったのは偶然ではないように思う

カウンターサッカーがインモービレを活かし、同時にカウンターサッカーを志向するインザーギ監督がインモービレを求めたのだ。まさにウィンウィンの関係だ。

このインザーギ監督との出会いがインモービレの運命を変えた

 

インモービレが得点を取ることに専念するための構造

また、今季のラツィオはカウンターが打てないと判断した際には、ボールをポゼッションしながら攻撃することもレパートリーに加えている。これは前述の通り、インモービレの苦手分野だ。

しかし、今のラツィオはインモービレが苦手な仕事をこなさなくてもいいような工夫がなされている。

引いた相手を崩すプレーは細かい技術に優れた相棒のホアキン・コレアがやってくれる。相手をかわしていくようなプレーを得意としないインモービレは、目の前に複数の選手が立ちはだかると、無理せずにコレアをはじめとした周りの味方を使う。だから、アシスト数も意外に多い

インモービレと抜群の連携を見せる技巧派FWホアキン・コレア

この点はあまり触れられないが、今季もすでに7アシストを記録しており、昨シーズンとその前のシーズンでも各6アシストを記録している。これは、現在インモービレを追うロナウドの3アシストやリーグ記録の36ゴールをマークしたシーズンのイグアインが記録した2アシストと比べても突出した数値だと言っていいだろう。突破力がないからこそ、より可能性が高い判断を冷静に下せていると言えそうだ。

空中戦での競り合いは2列目から前線に上がってくる大型MFのセルゲイ・ミリンコビッチ=サビッチがやってくれる。インモービレの苦手項目は他の選手がやってくれる構造が出来上がっている。

インモービレに変わって空中戦を担当するのが、2列目から頻繁に前線へ飛び出してくる191cmの長身MF、セルゲイ・ミリンコビッチ=サビッチ

 

怪我無く安定して得点を量産できる理由

それではインモービレは相手を押し込んだ時に何をしているのか。ひたすら中央に陣取り、クロスが上がってくるのを待っている。

彼のゴール集を見てもらえればわかると思うが、インモービレがクロスに合わせる場所は、ほぼ確実にフォアサイドだ。クロスもそうだし、コーナーキックでもそう。一番遠い場所でクロスが流れてくるのを待っている。

DFはボールを見ざるを得ないので、ゴールから一番遠くにいるインモービレをボールと同時に視野に収めることは事実上不可能だ。サイドにあるボールに引き寄せられるようにして、DFはフォアサイドを空けてしまう。そこにフリーで飛び込み、確実に押し込むのがインモービレの十八番だ。

インモービレは185cmあり、体格がいいがDFと競り合い場柄ねじ込むようなプレーはあまりしない。クロスに合わせるシーンもしかり、得意とする裏への動き出しでもDFは置き去りにしているので競り合いにはならない。DFとの駆け引きでフリーになってボールを受けたときにはすでに勝負を決めてしまっているのだ。また、空中戦もより大柄なミリンコビッチ=サビッチがやってくれる。

ひたすらフォアで待つインモービレ。DFはボールを見ているとインモービレを視界に収められず、自然とフリーに。

だから、インモービレがDFと激しく接触するような場面は、意外なほど少ない。このプレースタイルが、彼がラツィオ移籍以降は大きなけががなく、毎シーズンほぼすべての試合に出場して得点を量産できている大きな理由になっているのだ

 

今のラツィオは、インモービレに得点を取らせるために戦い方を構築している。それによってインモービレが輝き、得点を量産する。そのことによってチームも勝ち続けるといういい循環が出来上がっているといえるだろう。

まさにインザーギ監督はインモービレにとって恩師だ。そして同時に、インザーギ監督にとってもインモービレは最も欠かせない選手なのだ。

流浪のストライカーだったインモービレはラツィオという安住の地にたどり着いた。リーグ再開後もこのチームのために得点を量産してくれることだろう。

 

 

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