日本サッカーの未来をいま一度考える 『サッカーは5で考える』を読んでみた

日本サッカーの未来をいま一度考える 『サッカーは5で考える』を読んでみた

2020年5月1日 0 投稿者: マツシタ
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世界はグローバル化して久しい。国境を越えて様々なものが行き来することで、世界中で共通の価値観のようなものが生じたように感じる。

サッカーも同じだ。クラブシーンの最先端では常に新しい戦術登場してトレンドとなり、これをキャッチアップし損ねると時代の波に乗り遅れたように感じるだろう。

他人と違うことを嫌う日本人という民族は、トレンドを追うのが大好きだ。日本サッカー協会も同様に世界標準を取り入れることで戦後に急速に台頭し、ワールドカップに6大会連続で出場と、もはやワールドカップに出るのが当たり前なレベルにまで達することに成功した。これは称賛されるべき成果だろう。

しかし、24年の挑戦を経ても、いまだにベスト16の壁を越えられていない。成績だけ見れば、24年間進歩がないままなのだ。

この壁を越えて、日本が「アジアの強豪国」から真の強豪国へ、そして「ワールドカップ優勝候補」へと成長していくには何が必要なのか。これについて独自の視点から紐解こうとするのが北条聡氏の著作『サッカーは5で考える』だ。

現代サッカーの最新トレンドといえる可変システムと、強豪国の代表ちーうに伝統的に見られる特徴を見ていきながら、日本サッカーが強くなるために必要なことを考察している。

 

 

サッカーのトレンド=ヨーロッパのトレンド

サッカー選手のアスリート化

前述のように、日本は世界標準を取り入れることでアジアの強豪国に成長した。プロリーグの創設、育成体系の整備、戦術用語の導入などだ。

しかし、ここからさらにもう一段階上のレベルに到達するためには、トレンドを追うだけでは無理なのかもしれない。

というのも、サッカーのトレンドとは、つまるところヨーロッパサッカーのトレンドだ。あちらのサッカーに最適化されている。必ずしもそのトレンドが日本人選手たちにとっても最適化されているとは限らない。

では、そのヨーロッパでのトレンドとは一体どのようなものなのか。まず、全体的な傾向としてみると、「サッカー選手のアスリート化」が顕著になっている。より強く、より大きく、より速く、である。ようは何でもできる万能な選手たちが集まって何でもできるチームを作るわけだ

 

万能トレンドに乗った勝者たち

2018年のロシアワールドカップで優勝したフランスはまさにこのようなチームだった。もともとは白人の国ながら、決勝のスタメンにはアフリカ系の黒人移民が半数以上を占めた。ポストワーカージルー、技巧派グリーズマン、ボールハンターカンテ、ダイナモのマテュイディ、爆速ムバッペ…まさに全てを兼ね備えたチームだった。ボールを支配するプレーを志向しながら、アルゼンチン戦やベルギー戦のように引いて守っても堅かった。カウンターでムバッペの爆速が生きた。まさに万能チームだったのだ。

ロシアで世界王者に輝いたフランス代表

準優勝したクロアチアも万能なチームだったといえる。伝統国とは言えないが、レアルのモドリッチ、バルサのラキティッチ、ユーベのマンジュキッチをはじめ、強豪クラブで主力を張るタレントをそろえ、タレント力を見ても伝統国にも引けを取らなかった。また、東欧のチームらしく屈強なフィジカルをほぼ全選手が持っていた。チームの平均身長は、驚異の185cm越えだ。トレンド通りなのである。

列強国にも劣らないタレント力で準優勝と躍進したクロアチア

ワールドカップ後にこの流れを汲んで欧州制覇を成し遂げたのがリバプールだ。猛烈なプレッシングからの早い攻撃の完成度はもともと猛威を振るっていた半面、ボールを持たされて守備を固められると攻め手を欠くという弱点があった。しかし、昨シーズンはこの弱点を克服し、遅攻のクオリティーを高めたことで万能なチームに変貌。欧州制覇を成し遂げた勢いそのままに、18連勝44試合無敗のプレミアリーグ記録を樹立するなど圧倒的な強さを見せつけている。

今季のプレミアリーグで圧倒的な強さを見せたリバプール

 

万能化は強者の戦略だ

では、このトレンドを追って、日本も成功できるだろうか。答えはノーだ

日本人という民族は東欧や北欧のように屈強な肉体を持っていない。基本的に移民も受け入れないからアフリカ系の爆発的なスピードやジャンプ力も持っていない。

加えて、日本にはオリンピックで金メダルを狙えるような競技がいくつもあり、そのような人材をサッカーが独占することは不可能だ。

基本的に、万能化は人的資源に恵まれた強者の戦略だ。均一性が強い日本に向いているとは思えない。

 

 

「自分たちらしいサッカー」

ワールドカップ優勝国の共通点

それでは、日本はどこに向かえばいいのだろうか。

ここで、2014ブラジルワールドカップの優勝国ドイツと2010南アフリカワールドカップの優勝国スペインについてみてみよう。この2か国には共通点がある。それは、国内強豪クラブの主力が、代表でも同様に主力として活躍したことだ。ドイツはバイエルン、スペインはバルセロナである。

国内強豪クラブのユニットと戦術をそのまま代表にも転用し、元から組織力や連携面がハイレベルに完成されたチームだった。つまり、代表シーンにおいて組織力は非常に大切だということだ。

海外組が増えた日本代表。昨年には先発11名が全員海外組で構成されて話題となった。これは多くの人材をサッカー先進地域に供給できていることを意味する反面、一緒にプレーする選手が減って組織力の構築が難しくなりつつあることも意味する。組織力は元来本サッカーの長所であったはずだ。ここが失われるのは日本サッカーにとっては損失だといえる。

 

「日本らしいサッカー」が今こそ求められている

基本的に、日本代表は世界レベルでは強者ではない。ゆえに、強者であるヨーロッパが作り出すトレンドを追っていては勝てないのだ。日本人お得意の「みんなと同じ」では勝てない。「みんなと違うこと」をしていかなければならない。

ブラジル大会で堅守速攻で躍進したコスタリカ、ハイプレスで南米選手権を連覇したチリなど、みんなと違うことをして躍進した非強豪チームはいくらでもあるのだ。

つまるところ、「日本らしいサッカー」を確立することが近道だろう。しかし、この「自分たちらしいサッカー」というフレーズはテレビでもよく耳にし、選手たち自身も口にしている。だが、具体的にどういうものなのかまで言及しているシーンは目にしない。ここを掘り下げなければならない。

 

「自分たちのサッカー」に関する皮肉

日本で「自分たちらしいサッカー」というと、ボールを保持して主導権を握るサッカーというあいまいな共通認識があるのではないだろうか。

確かに、日本人選手は足元の技術に優れ、敏捷性でも多くの対戦相手に対して優位に立てるだろう。これを活かそうとするのは理にかなっている。

しかしながら、過去のワールドカップの成績を見ると、それが正しい道なのか迷いが生じてしまう。過去にグループリーグを突破した日本代表は、どれも攻撃よりも守備に特徴があったのだ。南アフリカ大会の岡田ジャパンは堅守速攻を地で行ったチームだった。

堅守速攻で挑み、ベスト8まであと一歩まで迫った岡田ジャパン

ロシアワールドカップではここまで極端な守備戦術ではなかったものの、香川、大迫、乾、原口と攻撃力だけでなく組織的な守備の面でも持ち味を発揮する選手前線からならべ、ミドルプレスを機能させた。攻撃面で最も目立ったのは、ショートパスで崩すシーンではなく、柴崎からのロングフィードだった。

一方、ポゼッションサッカーを掲げ、強豪相手にもボールを支配しようとしたザックジャパンは、1勝も挙げられずに大会を去った。

過去最高と呼ばれた陣容と魅力的な攻撃サッカーで上位進出が期待されながら、惨敗に終わったザックジャパン

これだけを見ると、ボールを握るサッカーで方向性があっているのか、わからなくなってしまうだろう。

 

 

まずは強化の方針を一貫させるべき

長所を伸ばし、短所を克服せよ

ここからは、本の内容から少し外れて私個人の考えを少し述べる。守備的に行くほうが結果的にいい成績になってはいるものの、個人的には守りに入るよりは攻撃に出たほうがいいと考えている。フィジカルで劣る日本代表が世界を相手に守り勝つことは想像しづらい。事実、ロシア大会ではフェライニというフィジカルモンスターに力負けした。それに、前述の通り、日本人選手の特徴はレベルの高い足元の技術と敏捷性だ。ここは世界でも通用する部分だろう。活かさない手はない。

問題は、過去のチームは攻撃力と守備力が両立していないことなのだ。あちらを立てればこちらが立たずである。これが両立したときに、日本代表がベスト16の壁を破ってくれるのではないか。

 

モデルはメキシコだ

その守備に関しては、日本人選手特有の敏捷性を活かし、ボールを失った瞬間から強烈なプレスをかける、いわゆるハイプレス戦術の導入が望ましいと考える。南野拓実がザルツブルクで見せたように、機動力を生かしたボール奪取からテクニックを活かした細かい連携で素早く攻め切るスタイルは、日本人との親和性が高いように映る。

このスタイルは、日本と同様にフィジカル的に恵まれていない国がことごとく採用しているスタイルだ。その最前線にいるのがメキシコだろう。ワールドカップではここ7大連続でグループリーグを突破している。ロシアでは素早く奪い返しての速い攻撃で前回王者ドイツを下す番狂わせを演じて見せた。

しかも、メキシコは堅守速攻一辺倒ではなく、ボールポゼッションからの攻撃の質も高い。日本代表が目指すスタイルを体現しているといっていい。

機動力とテクニックレベルの高さという日本と共通の強みを存分に生かしたメキシコ代表は日本代表が手本とすべきだ

そのほかにも、前述のチリや、そのチリを上回って久しぶりにワールドカップの舞台に登場したペルーも同様のサッカーを志向している。ロシアでのペルーのプレーぶりは、非常に印象に残っているところだ。

 

これまでの代表は強化になっていない

最後に再び本の内容から引用しよう。これまでの日本代表の監督選考と目指すスタイルについてだ。

日本代表はこれまで、前体制を否定する形で4年ごとに強化方針が変更になってきた。堅守速攻だけではだめだ、ボールを握らなければと岡田からザックへ。そしてボールを持つだけではだめだ、奪う力が必要だとザックからハリルへ…

これが前体制下の長所を引き継いだうえでになっていればいいのだが、そうなっていないのが問題だ。体制が変わるたびにA+Bになればいいのだが、ただA⇒Bに変更になっているだけで、何も積みあがってきていないのだ。やっぱりあっちを立てればこっちが立たずなのである。

まずは、JFAがこの強化方針のブレッブレ具合を何とかしなければならないだろう。一貫した方針を掲げ、辛抱強く強化を行っていくしかない。それは痛みも伴うが、みんなと違うことをするとはそういうことではないか。

世界標準を追うのは、メガクラブで活躍する選手がスタメンにずらりと名を連ねるようになってからでも遅くはないのではないか。そう著者は言うのである。

 

いかがだっただろうか。トレンドと日本サッカーを考えるという独自の視点からサッカーをとらえた本書は、これまで読んできたサッカー関連書籍の中でも群を抜いて面白かったというのが正直な感想だ。ここまで長い記事も流れるようにかけてしまった。

本書は半分が日本サッカーについてであり、この記事はその部分にフォーカスした。残り半分を占める、現在の欧州サッカーのトレンドの解説、そして世界の列強国に特有のサッカーのスタイルなどについての部分も、非常に面白く、すらすらと読んでしまった。この部分については、ぜひ皆さんが手に取って実際に読んでみてほしい。

それでは、今日はここらへんで失礼します。